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甦るノワール「91Days」- ハードボイルド、そしてトンプソンとM1911

「ハードボイルド」は、「男のハーレクイン・ロマンス」

誰がか評したこの言葉。実際、日本を代表するハードボイルド作家も、ハードボイルドの代名詞である、探偵、フィリップ・マーロウをこう述べ切った。

「女々しい男」

非情な世界のわりに、「義理」「人情」そして「男たちの友情」が重きに描かれるハードボイルドというジャンル。いや、かえってそのコントラストを浮かび上がらせるために、「非情な世界」が用意されたのではないのだろうか。
「ハードな言葉の裏に流れる」女々しさ。それは、「ワイズラック」。「男の美学」。
ヘミングウェイに始まり、チャンドラーが完成させた「ハードボイルド」的リリシズム。
それは、今もみなを「ハードボイルド」というジャンルにくぎ付けにさせる原動力ではないか?
そして、ハードボイルドの歴史に、また一本の新たなる作品が。
その名は『91Days』

あらすじは、禁酒法時代。密造酒をめぐって暗黒街の顔役が活躍しているってところから、古き良きノワール・フィルムの香りがプンプンしてくる。
そして、すさんだ生活を送る、主人公アヴィリオのもとに、一本の手紙が届く。
そこには、かつて自分の親を皆殺しにした、マフィアのファミリーのメンバーのリストが。
かくして、「復讐」という名の亡霊は甦る。仇であるヴァネッティ・ファミリーに単身乗り込むアヴィリオの運命は?

ノワールものでは安定の王道「復讐もの」。
しかし、『91Days』というのは、きわめて地味な作品だ。
萌え系の女子が出るわけでもない。派手なドンパチはオープニングだけ。必要最小限のところしか発砲しない。世の主流である「萌え」そして、ハリウッド主義である「強力な火力」という二大武器を捨てている。
さらに言うと、人物構成が複雑。
それゆえに、どうしても話は難しくならざるを得ない。
「五秒で世界をわかりたい」風潮な巷に反する。一見すると、どうも「ウケにくい」作品だ。
しかし、ここには「ハードボイルド好き」の心をキャッチする何かがある。

まずは構成の妙。
「先が読めない」という言葉は、まさにこの作品のために用意されたもの。
昨日の敵はあっという間に今日の敵になる。
猫の目のように変わる状況。
そして、主人公アヴィリオの頭の冴え。復讐のために、まさに敵地のど真ん中に飛び込んでいく。
味方は誰もいない。加えて真意を悟られてはいけない。
その中で、自分の持てるカードを駆使して状況を切り抜いていくアヴィリオ。
それは『カイジ』の頭脳プレーを彷彿させる。
良質な推理小説。珠玉のショートショートを見るように、鮮やかにその場所を脱するアヴィリオから目が離せない。
これ全身アイディアの宝庫とばかりに詰められた「アハ」体験。
全部通しで見ると、6時間以上にわたる長編にもかかわらず、二時間映画もかくや!という感じで、時間も忘れて見入ること請け合いだ。

また、なんとなく「ロシア文学の香りがする。」
「無人島にロシア人の女一人、男二人が残された。一人の男は好きでもないその女と結婚し、もう一人の男は死ぬまで嘆いた。」
ロシア文学をネタにしたジョークだ。
しかし、なんとなくそれを彷彿させるのは、本編も「愛」が詰まっているからかも。
それも、少しばかりボタンの掛け違っている愛だ。
自分たちのファミリーを守るために、
敵であるネロと、主人公であるアヴィリオの「友情」という名の愛。
脇役でさえ、深く誰かを愛している。
ただ、ほんの少しすれ違っているだけ。「神様はいたずらが大好き」という具合に、運命が絡まっているだけ。
特にラストシーン。
まるで、幼馴染のように連れ添うネロとアヴィリオ。その延長線上として迎えるあのエンディング。
その笑顔は、無邪気な子どもの児戯のようでもあり、そして「友情」の究極の形。
多くは語らないが、走り去るネロの顔に浮かぶ笑みは、これ以上なくさわやか。だから悲しい。
衝撃的なラスト。
それは、皆様の目でぜひ確認してほしい。

というわけで『91Days』、久々に歯ごたえのある「ハードボイルド」に出会える。
全7巻、ぜひこの際にイッキ見してほしい。なぜなら、これはTVシリーズ、という「分断」を前提にした構成ではない。これ一本で「本編。」まさしく「長編映画」なのだ。

『91Days』公式サイト

で、これを見れば絶対欲しくなるのがトンプソンだ。アメリカ軍正式採用となったこれはマシンガン・ウォーと呼ばれた、第一次世界大戦を戦い抜いた名銃・・・。
なんだけど、最初の方は、高価すぎて敬遠されていたのはご存知だろうか?そこで飛びついたのがお金持ち。つまり密造酒で設けていたマフィアだった、というわけ。一人VS多数を可能にしたサブマシンガンの有効性に気付いたのは、悪党たちで、それに対抗するために警察が後追いで購入。そして、「サブマシンガン」というジャンルの有効性に気付いた。
皮肉な話だが、「トンプソン」=「ギャング」という図式がここに根付いてしまう。何せ、イギリスはこの銃を「紳士の国にギャングの銃はいらない」っていうんで、一蹴してしまったほど。しかし、OP。そして、物語のラストで景気よく吐き出される銃火と薬莢の花火を見ていると、そんなことはさておきたくなる。

今、国内で生産されているのは、東京マルイ製。しかも、電動ガン。

マイナー化しつつあるトンプソンなどという渋い銃。その技術を惜しみなく注ぎ込む東京マルイには、拍手を送りたい。サバイバル・ゲームに持って行っても、注目を得る一丁だ。

また、主人公たちが愛用する45オート。「マフィアの正式採用」と言っていいほど、ともかくみんな持ってる45オート。一見、大戦中使われたM1911に見えるが、そのブルーイングといい、細部といい、どうも「コマーシャルモデル」らしい。つまり、輸出用、民間用に卸されたモデルで、美しいブルーイングが特徴的だ。
といっても、ミリタリーガバメントとほとんど変わりがない。だから、市販のガバメント・ミリタリーモデルでアヴィリオの気分を味わう。というのも悪くない。

古き良きアメリカの薫り高い銃器。そのクラシカルな雰囲気を味わいながら、『91Days』鑑賞、というのも悪くない。萌えやユルさが氾濫する最近。本作で「ドン!」とカツを入れてもらおうではないか。


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