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カーチェイスって、楽しいよね!『おしおきビート』

刑事ものの三大イベントをご存知だろうか。「銃撃戦」「爆弾解体」そして「カーチェイス」。最近、推理物が流行ってるからかどうかは知らないが、国内刑事ドラマで、血沸き肉躍るアクション。なかなかそれにお目にかからなくなってきた。

「犯人とのネゴシエーション」という名を借りた、緩慢なおしゃべりの果ての一発。緊張感を高めるため、演出上の乱射を防いでいるのか?それにしても物足りない。加えて、カーチェイスの皆無さ。

かつて日本の「銀幕」の警察は、車が飛ぶ。パトカーの数珠つなぎ事故。派手な転倒、大爆発。そのための特殊車両までそろえた警察署まで存在したのに、今はどうだろう。車は、ただの交通手段と化しているではないか!

いや、テレビの影響で乱暴運転が。という説もわかる。わかるけど。漢の本能を燃やし尽くすような、派手なカーチェイスってみたくはないだろうか?

というわけで今回は、そんな飢えた方にピクシブで発表なされてる、少年A様の『おしおきビート』をおすすめしようと思う。

そんな無軌道なっ、だがそこがいい!

お話は、チンピラ風の男が、たばこをポイ捨てすることころから始まる。そこへ襲い掛かる、強烈なホイッスルの音。見ると、婦人警官風の小娘が「路上のポイ捨てはダメよ、今すぐ拾いなさい!」と叫んでいるではないか。当然、チンピラは「けっ、なんで俺が・・・」という流れへ行く。

有無を言わさず、その少女警官が構えたものは「ミサイルランチャー」だった。

おしおきビート 2

たががポイ捨てに、ミサイルランチャー!?このぶっ飛び具合、荒唐無稽さにグッとくる方もおられるかもしれない。私は冒頭のこれでハートをわしづかみにされた。いまどき警察官でも一発撃っただけで大事件。ニュースで問題行動として騒がれてしまう世の中。そして、それは「妙にリアル」になった刑事ドラマでも同じ。

何かかなり遠慮がちになっている発砲シーン。下手すると、物語中、銃をちらつかせて終わるだけのエピソードもある。うん。その分リアリティを出してるのもわかる。人間ドラマに主眼を置いているのもわかる。しかし「現実にできないことをやる!」というのも、フィクションの大切な要素だろう。

おしおきビートは、そんな制約など何一つお構いなしに、38口径などという豆鉄砲ではなく「ミサイルランチャー」を向ける。しかも「たががタバコのポイ捨て犯」にだ。この辺のけれんみが心地いい!

そして、おしおき完了したビートの前に、パトカーが突っ込んでくる。

「今日こそは捕まえてやるっ!」

おしおきビート 3

え?この少女、警官じゃなかったの?ここで、読者の予想はあざやかに裏切られる。ここまで読んで、きゅぴーんと来た方は、是非本編へなだれ込んで欲しい。

カーチェイスってのは、こういうんだ!

そう、このお話の魅力は、全編にあふれるカーチェイス。大通りから、峠。果ては路地裏まで、実にいろんなところでカーチェイスをする。

カーチェイス、というものは、単純だ。例えば、ジャッキー・チェンの映画を思い出してほしい。壁に上る。自転車に切り替える。格闘する。ポールにつかまり滑り落ちる。車につかまる。実に多彩なアクションが詰め込まれているが、これは「人間」だからできること。

トランスフォーマーじゃないんだから、まさか、車から巨大な手が伸びて、何かにつかまってよじのぼる。車から足が生えて、敵車を鮮やかに蹴り飛ばす。などということは、できまい。
つまり「車はあくまで箱」であり、役者のように、細かい表情や演技を要求することはできない。加えて「進む」「曲がる」「止まる」。極端に言うと、その演技しかできない。よく考えてみると、下手な演出では、ただ「車が走っている」のを延々見せられる危惧もわいてくる。

しかし「おしおきビート」では、そんなものは杞憂だ。派手なドリフト、パースがかかった車。アニメーターが人の動きを熟知しているように、作者も、車の動きにかなり熟知している。

ご存知の方も多いと思うが『ルパン三世 カリオストロの城』。冒頭の、ルパンたちが乗るフィアットのカーチェイス。「実はあの車、アニメ合金でできてるんだよ。」といわれるくらい、車の動きがデフォルメされている。スタート時に一瞬力をためるように縮む車体。バウンドするたびにくねりまくるフレーム。

そして「おしおきビート」でも、この演出上の「マンガ」的表現が効果的に使われている。

おしおきビート 4

急発進で、まるでしなやかな猫のように、前が沈み込む車体。急な方向転換で、車が浮かび上がり、まるで足場を求めようとする馬のように、あっちこっち向くタイヤ。このような漫画的表現でも、破たんしないのは、きわめてリアルに車が描写されているから。

『カリオストロ』のカーチェイスでも「リアル」ということも盛んにささやかれている。そして『おしおきビート』でも、細かく描きこまれたフロントフェイスには、ヘッドライトの筋さえ書き込まれている。タイヤも細かい溝までばっちり描かれている。そのデフォルメとリアルの両立は、鳥山明さえ彷彿させる。

マンガ『コブラ』の作者、寺沢武一は「SFという架空の世界を描くんだから、細部のリアリティにはこだわらないといけない」とばかりに、背景などにさえ繊細な描写を持ってくるのだが、それと同じこだわりを感じる。
デフォルメとリアリズム。この両輪ががっちりと手を組んで、車の「躍動感」いや「生命感」と言っていいものを醸し出している。そしてそれは、全身で語りかける。「走る車って、楽しいよね」

おしおきビート 5

細部に技ありっ!

また、物語細部に出てくる小ネタにも、思わずにやりとしてしまう。主人公を追いかける警官。もう一人の主役の名は「本田走一狼」だ。しかもラストシーンで、おしおきビートを追い詰めた時に出すのが、ルガーブラックホーク。

そう、漫画『ドーベルマン刑事』で、主人公が使っていた44マグナム。やはり、おっさん世代の私としては、名物刑事はリボルバーの、しかもマグナムを使ってなければならない。が、ここでダブルアクションリボルバーでなく、一昔前のブラックホークを持ってくるところに、センスが光っている。

そして、自動車チューニング屋の屋根に誇らしく光る看板。これが、ホンダ・ビートなのだ。ほら、町の車屋さんでよく見かけるでしょ?ワーゲンとかミニクーパーとか、名車を看板代わりに屋根の上に飾ってある店。しかし、これはカモフラージュ。おしおきビートが動き出す時、看板のビートは速やかに地面におろされ、活躍の時を待つ。この辺、いかにも「ルパン三世」や「007」を彷彿させて、すごくいい。

という具合に、紹介してきた『おしおきビート』いかがだったろうか?翻って、昨今のマンガもアニメも、こういう風に「荒唐無稽一歩ギリギリ」だけど「とにかく読んでてスカッとする」アクションを取り入れたものが少ない。

猟奇死体やら、こじゃれた頭脳戦はいっぱい出てくる。しかし、それもこう氾濫気味だと「お前ら、もっと体を動かさんかい!汗の味知ってんのか?」みたいな欲求不満が高まってくる。そんな現状のアンチテーゼとして、いや、「細けぇことはどうでもいいんだよ!」渾身の力で描かれた「はちゃめちゃハードコメディアクション」ただ、この魅力に酔って欲しい。

『おしおきビート』はピクシブにて発表されている。

【漫画】おしおきビート | 少年A [pixiv]

ぜひご一読を!