時を経ても 「それは、まぎれもなく奴さ」 – コブラ大解剖
最近コブラが元気いい。そう、左腕にサイコガンを持つ不死身の宇宙海賊だ。1977年から掲載が開始された本作。少年マンガと言えば、主人公が子どもだった時代に、「かっこいい大人」が主役を張ったのだった。
くわえ煙草ならぬくわえ葉巻。全身これ鋼のような肉体。そして、どんな窮地に陥っても、軽口を叩ける余裕は、いかにも新鮮。ジャンプ黎明期にコブラのとりこになった方も多くおられるのでは?
2008年には「コブラ生誕30周年」を記念して「COBRA THE ANIMATION」が登場。新作OVAと、しかもうれしいことにTVシリーズ。ファンの心を大いに燃えたぎらせた。実写映画化の計画も進行、そのあおりをうけ三栄書房から『COBRA 大解剖』が登場した。
そしてそれは、これまで出たどんなコブラ特集本とも違っていた。
・ここが凄い『COBRA 大解剖』
『COBRA 大解剖』と言うからには、主役のコブラ。そして、その相棒のレディはもちろん、敵味方ひっくるめたキャラクター解説、エピソード解説が軸になっている。しかし、+αがすごい。
まず、目を引くのは荒木飛呂彦の応援メッセージ。今や社会現象にもなりつつあるコミック『JOJOの奇妙な冒険』。「ジャンプだったらこれしか読まない!」と言う方もいるくらいの看板な長期連載作品。「ジョジョ立ち」「スタンド使い」独特なデザインと力強いペンタッチ。唯一無二な世界感を持つ漫画家の筆で、コブラのあのキャラが!?実際に、これは本書を取ってみて、確認してほしい。まさに、このムックでしか見られない最高のコラボだ!
そして、虚淵玄氏のインタビューもついている。虚淵玄と言えば、エロゲーなのにエロが出てこない。それどころか本格的少女ノワールなので熱狂的にファンに受け入れられた、伝説のエロゲー「PHANTOM OF INFERNO」の作者ではないか。
さらに、残酷描写や絶望から生まれる希望を描き切ったアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』では、シリーズ構成、脚本を務める。従来の魔法少女ものとは全く違う、大人向け要素を積極的に取り入れた通称『まどマギ』は、社会現象にもなった。近年では『仮面ライダー鎧武』の脚本も手がけている、今が旬のシナリオライター。彼がコブラについて、熱く語っている。
ファンとして、そして創作者からの視点で語られるコブラワールドは、新鮮の一言。コブラファンだけではなく、虚淵玄ファンの方にも、これが入ってるだけでおなか一杯だろう。
・初公開!寺沢武一の原型
また、寺沢武一が、実は少女漫画デビューを目指していたことはご存じだろうか?えっ、飛び交う銃火。煙草の煙と酒。行動と背中で語るハードボイルド・ワンダーランドみたいな作品が代表作になってるのに!?びっくりされる方も大勢いるだろう。何せ、読んだ張本人の私から驚いている。しかも「子どものころは漫画家なんか目指してなかった」といわれた日には目からうろこが、どころか目玉が落ちる気分だ。
マンガに縁が薄かった幼少期を過ごした彼が、どうしてマンガ家を目指すようになったか。それが、本書の寺沢武一インタビューで詳しく明かされる。コブラではないが、まさにドラマティックでスリリングなエピソード。本気で書店に走ることをおすすめしたい。
また、寺沢の未発表、少女マンガの原稿もある。繊細で精密なタッチが、実に少女漫画の雰囲気とマッチ。なるほど、今の寺沢氏の絵柄には、実は少女漫画の影響を受けている。意外なことがわかる貴重な特集だ。
続けざまに、コブラの原型となった、『シグマ45』も、一部だけだが掲載。主人公は女性。しかし、コブラに出てくる敵キャラがチラ見せされていたり、何にもまして「腕に仕込まれた銃」が物語の重要なファクターになっていたり。原作者が言う通り「コブラの原型」にふさわしい一本。
『シグマ45』自体、2007年にメディアファクトリーが刊行した『COBRA 完全版』の限定特典としてつけられた。つまり、非常にレアだということ。
こんな特典を、惜しげもなく注ぐ『COBRA 大解剖』。しかもコブラの未発表ラフはもちろん、単行本未収録の最新短編二本で、コブラの活躍が拝める。
・「SF・・・それは、新しいビンに入れた、古いブドウ酒なのさ。」By 寺沢武一
『魔法の船』『バラ』というタイトルの作品がそれに当たる。しかし、この二本。特に『バラ』はまさに寺沢氏の真骨頂ともいえる、ストーリー廻しの妙が抜きんでている。
もともと私はコブラの短編が好きだ。と言うのは、長編になると「コブラのスーパーマン性」が前面に打ち出されているので、なんとなくマンネリな印象を覚える。私にとって、コブラとは、肉体的にも優れているが、「頭でも勝負できる」男だと思っている。例えば、最初のエピソード『イレズミの三姉妹』に出てきた様々な仕掛けがそうだし、あるいは、サイコガンの砲撃に耐える戦車を、コブラは見事に頭脳プレイで倒すエピソードもある。そのような、トリッキーだけど、まるで星新一のショートショートでも見るような斬新さ、アイディアの宝庫は、短編にこそあると思う。
『ロボットはいかが?』『カゲロウ山登り』『さまよえる美女の伝説』などなど、名エピソードが目白押し。で、『コブラ大解剖』でも、紙媒体では初めてお目にかかる短編。コブラのセンス・オブ・ワンダーが味わえる。なんとうれしい事か!
はっきり言って、ここまでコブラのエッセンスがぎゅっと詰まったムック、と言うのも、珍しいのではないだろうか?
最近、リバイバルブームだとか言って古い作品がムックとして頻出している。しかしその中身は、前の本の焼き直し、どこかで見たデジャビュ感がすごい、言い方が悪ければ「手抜きしたな」と思わせるものも多い。しかしこの本からは愛さえ感じられる。コブラに関するアニメ、グッズさえ網羅しているこのムック。書店で見かけたら、いや取り寄せてでもぜひとも手にしてほしい一本だ。