子どものためのアダルト本!?双葉社ジュニア文庫『ルパン三世』
あなたは『ルパン三世』をご存知だろうか?
もちろん、こんな記事を読んでいる時点で、ルパン三世を知らない、とは予想しがたい。
が、もしあなたがルパン初心者なら、福音となる一本が出た。
ルパン三世 五右ェ門登場編、双葉社ジュニア文庫刊。そう、れっきとした児童書だ。
そもそも、出会った時から異色だった。でかい目でアニメ塗りな萌え萌え主人公。書店の児童書の棚が、彼、彼女たちであふれかえる中、原作者モンキーパンチの原画そのままの、クラシカルな劇画絵。このバタ臭い絵にひかれて購入するどころか、そっぽを向かれるマイナス要因となりかねないセンスに魅かれる。
一読してみてうならされる。
「こいつら、本気で勝負しているな。」
児童書で描かれる大人の世界
原作をベースにした本作。荒唐無稽一歩手前の盗みのテクニック。007張りの秘密ガジェットが懐かしい。原作版ルパンを読んだ方なら、まるでそのおいしいとこ総取りしたようなあらすじに、スムーズに入っていける。それでいて、現在でも通用するような普遍的な筋書きを導入したのも好感を持てる。
そして、けっこう人があっさり殺される。まるでマカロニ・ウエスタンのやられ役みたいなやつの命は軽い。「命の大切さ」を歌う昨今の風潮の中、これは頼もしい。マカロニ・ウエスタンは、あんまりにあっさり人が死ぬから、それでも生き抜く主人公たちに、僕らは命の尊厳を見たのではないか?
そう、本作のルパンは、悪党だ。『カリオストロの城』のような、やさしいオジサマではありえない。常に死と背中合わせ。自分の利がないと動かない。きわめてドライでハードボイルド。
しかし、法律の世界が届かない裏に生きるものだからこそ、生まれる友情は血より熱い。そもそも、私たちはどうしてルパンに心惹かれるのか?
スーパーマンだから?
カッコいいから?
いやちがう。彼らの外見は、ただのおもろい顔をしたおっちゃん。今のトップクラスを争う美形キャラの前では、話にならない。
それは、彼らが「大人」だから。言い換えれば「真に独立した男」だからではないだろうか?
彼らは非合法で生きる故、自分の面倒は自分で見なければならない。自分が蒔いたツケは払わなくてはならない。そこには、ガキのセンチメンタリズムの入りこむ余地はない。って、これは普通「大人社会」と呼ばれるものではないのだろうか?
大人へのあこがれ、かっこいい大人とは
ひるがえって、子供のころを思い出してほしい。一瞬でもいい。うちのパパやママ。先生ってかっこいいな、と思ったことはないだろうか?
僕では辛くて涙してしまうことでも涙を流さず、僕ではいけない世界のあちらこちらへいく。
僕では縮こまってしまうような恐怖にも毅然として対抗する。
そう、『ルパン三世』を見て、「ボクもあんなカッコいい男になろう。」とする。
ルパンは「独立した大人」の教科書ではないだろうか?
特に、「ピーターパンシンドローム」「大人になんて、なりたくない」風潮。
大人さえも、自分のツケを払わず、謝罪会見ではガキのように泣きじゃくる。逆切れする。ひたすら子どもな大人が増えてきたから、このような「大人になりたくならせる」啓蒙書は必要なのではないか?
さらに言えば、きっちりと峰不二子が描かれているのにも拍手。
そう、色気で男を誘惑。裏切りは女のアクセサリー。
一皮むけば「エンコー」っすか?みたいな安っぽい色気。
というか、不純性交友を助長するもりか?といったリスクは当然思いつくが、それがまったくない。
不二子は男と張り合えるだけの芯が通った女性。アニメ『峰不二子という女』は、彼女が彼女になるまでの「死闘」を描いた作品。そして、本作でもその筋がぴんと張っている。
まさに男の友情。
女でも男の友情!
大人の「男の子」へ向けたルパン三世
というわけで、子どもなのに手加減無し!
裏切り裏切られ、の中に芽生える友情。
ときたら、これは狙っている確信犯!?
児童書の棚に並んでいるが、間違いなく大人の「男の子」向けだ。
だから、大人の我々が読んでやろうぜ!
できれば、ルパンビギナーにぜひ読んでほしい。
読みやすい文体。けっこう入り組んでいるトリックを明快な描写でわからせる。
子ども向けの本だから、できる芸当だ。
この読みやすさ。短編なので、通勤時間にも、夜寝る前でも、いつでも読めるのがいい。
特に、ルパンといえば、『ルパン三世VS名探偵コナン』しか読んでいない、という方に。
「ホンモノの悪党」=「ルパン」がここにいる!
Photo by wikipedia.org