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S&W M19 + Colt Python = スマイソン。そして『ジャングルの儀式』

「スマイソン」あるいは「スモルト」という銃の名をご存知な方はそう多くないかもしれない。

S&W357マグナムの本体に、パイソンの銃身を付けたものだ。

異質なもの同士なのに、これがすさまじく美しい。

「丹精込めて作られた命中精度抜群」のパイソンの「バレル」と、「ダブルアクション最高峰のトリガーのキレを持つ」S&Wを組み合わせたら、サイキョーだろうという「中二病体現」な銃だけど、「S&W社の新作」?と言わんがばかりのスタイリッシュな外見。

まだ、S&W社に、357マグナム専用の中型フレーム「Lフレーム」ができていなかった時代。M19のスレンダーなボディに、力強さを絵に描いたようなパイソンバレルは、ひたすら似合った。

M19の弱点である、バレル付近の強度の弱さも改善され、まさしく最強にふさわしい・・・ものとなるはずだったが、イマイチ有名ではない。

カスタムモデルなので、高価だったからだろうか? それとも「S&W、コルト、どっちつかずだなぁ。」という抵抗感があったのか。

実際、これが活躍する作品というと、TVドラマ『警視庁捜査第8班ゴリラ』で主演の舘ひろしが使っていたくらいしか思い出せない。

しかも、舘氏は「パイソン」が使いたいのに、入手しづらかったのでその代理としてスマイソンを選んだそうだ。

シティハンターやら、あぶない刑事が持っていてもちっともおかしくない、カリスマ性あふれた銃なのに!?

しかし、根強い人気がある。

今は無きメーカー、コクサイ。そして現存するメーカー、ハートフォード・そして、「リボルバーのタナカ」が、リリースしている。

そんな隠れたファンを持つスマイソンが、主役級を任された貴重な作品がある。

『ジャングルの儀式』(大沢在昌著)だ。

『ジャングルの儀式』という作品は、桐生傀という青年の物語。

幼いころ、父を殺され、一人ぽっちになった彼を支えてきたのは、なんであろう。「復讐」だった。

そして、彼は自分の体、銃撃戦のスキルを鍛え、ついに帰ってきた。東京へ。標的である花木を求めて。

「正義」なんていう錦の御旗はいらない。ただただ、復讐。「血を分けた肉親」の仇を討つ。それに青春をかける若者の物語。

しかし、話は意外な方向に転がっていき、読者を飽きさせない。読後にも、少しほろ苦いが清涼感たっぷり。大沢在昌の代名詞、『新宿鮫』シリーズ以前の、隠れた逸品だ。

で、結構大沢氏はガンマニア。

ご自分もモデルガンを持たれているし、しかもそれが「ダイヤモンド・バック」と来ている。

この銃もかなりマニアック。「パイソンが高価だから、廉価版パイソンを」ってことで、口径が一回り小さいディテクティブ・スペシャルにパイソンの銃身をくっつけたもの。

実際、今トイガンとして手に入れようとすると、カスタムメーカーに頼るしかない名銃。おそらく初めて知った、という方も多いに違いない。

そして、主人公にスマイソンを持たせるチョイスもガンマニアとしてうならざるを得ないし、そのリアリティ。

グリップは携帯に便利な、小柄で丸みのあるラウンドフレーム。銃身は携帯に便利かつ当てやすさのバランスを考慮して4インチ。

カスタムメーカーのディビス社を使うわけにはいかないので、手作りの一品もの。人ごみの中でマグナムを撃ってはいけない。なぜなら貫通して他人に当たる。

薬莢の重さばかりか、「これから人の命を奪う」その緊張感まで書き込まれた簡潔な描写。脇腹に当たるグリップが痛い。

などなど、ガンマニアならにやりと笑ううんちくを、さらりと混ぜてくるところがイイ。

大藪春彦が生み出した伝統。「ハードボイルドなら銃器」という王道を受け継いでいて、そして何よりも「現代っぽい軽妙洒脱さ」がある。

プレイボーイの名物編集者で、自他ともに認めるガンナッツ、小峰隆生も全力でおすすめする『ジャングルの儀式』

特に、最近の作品では控えめになっている、銃成分をたっぷり含んだ、名作冒険小説。

大沢氏といったら、『新宿鮫』しか知らない人へ。読まないとマジ後悔する逸品、手に入れる機会があったら、ぜひ!





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