映画とゲームの幸せな邂逅。『シルバー事件』
皆さん、覚えておいでだろうか?
プレイステーション、セガサターンなど。今となっては「旧」カテゴリになる、かつての最新鋭機が華々しく輝いていた季節を。
そして、その夢の塊の中に「映画のようなゲーム」というものは、まるで大輪のひまわりのように輝いていた。
今でこそ、『ファイナル某』とか『バイオ某』とか、「映画の中に入り込んだゲーム体験」当たり前だが、その影には様々な試行錯誤があったのを忘れてはならない。
そして、今なおその輝きを失ってはいない。というより「唯一無二」という王冠がふさわしい。
そのゲームの名は『シルバー事件』だ。
[toc]
ホラーアドベンチャー「Dの食卓」
最初に『映画みたいなゲーム』の完成させ、そしてヒットを飛ばしたのが、1995年にお3DO、PlayStation発売された『Dの食卓』だろう。
これは、謎を解きながら事件の真相に迫る「アドベンチャーゲーム」だった。
しかし、アプローチが斬新だった。従来の「コマンド選択式」というものを捨て、ポリゴンで制作された館を実際に歩き回って、怪しいところをボタンクリックで調べる。
「場所移動」「調べる」などという、間接的なものがなく、方向キーで直接動ける。
しかも、この方法で、映画のようなカット割りも可能。まさに「映画とゲームの幸福な融合」の一つ。
何せ、この後で「ホラーアドベンチャー」は、多かれ少なかれ『Dの食卓』のフォロアーとなった。
さすがは飯野賢治を一躍ゲームクリエイターの寵児に押し上げただけある。
しかし、「サバイバルホラー」を筆頭として、皆が一斉にその方向へ動き出したのは、仕方ないとは言え、なんかつまらない。
PS版「シルバー事件」
そんな中、1999年にPlayStationで発売された『シルバー事件』は、画期的だった。
まず、画面が複数出ること。「フィルム・ウィンドウ」と名付けられたこの手法。
中央にメインビジュアルが出るのは普通。
しかし、四分の一、キャラクターの表情がアップされる。入手アイテムの詳細が浮かぶ。
しかも、このビジュアルが固定的ではなく、リアルタイムで、最も効果的な配置、大きさで並ぶ。
ここら辺は、まるで音楽とシンクロするアニメのオープニングぽくもあり、「リアルタイムで見る」コミック感がハンパない。
加えてそいつが「動く」。疾走する車、背景、人物。静止画のかっこよさ。セルアニメーション。ポリゴン、モノクロ。果ては実写。
一歩間違えば「何、このちぐはぐさ!?」と一生に付される危険がありながら、本作の「どこが真実かわからない。」カオスな雰囲気とマッチして、神がかったスタイリッシュさになっているところは舌を巻く。
また、画面背景の「ウィンドウ」以外のところにも、あるときは意味深な台詞、あるときは映画『マトリックス』などのサイバーパンクを思わせる文字列、と、細部にまで「スタイル」にこだわる。
「コンティニュー・ゲームセレクト」画面さえ、ターンテーブルであるこのこだわり!
今のところ、最新で一番後発なメディアがゲームなら、すべてのメディアの「いいとこどり」ができるという利点があるが、まさにそれ!
しかも、「いいとこどり」でありながら、それら他のどんな作品にも似ていない個性が出ている。
これが、本作を2005年をして続編の『シルバー事件25区』。
そして、2018年をして、『シルバー事件』リマスター版と『25区』のカップリング、『シルバー2425』がプレイステーション4でリリース。
その深淵をうかがえる魅力だと思う。
シルバー事件の”癖”
だけど、その代わり。癖が強い。
レスポンスの遅いコントロール。選択肢が少なく、ほぼ一本道な展開。
謎を求め、あるいはサウンドノベル的な話の多彩な分岐を求める方にとっては、物足りないだろう。
あるいは、ちょっとゲーム的アドベンチャーが来たかと思ったら、延々とビジュアルシーンが流れる本作。
ここで「見たくもない映画を延々と見させられる」感が漂い、スイッチを切る方もいるかもしれない。
また、ストーリーは難解。
デヴィット・リンチの香りがする本作は、一歩間違えば「電波」満載作品に成り果てた危険性も多い。トンデモと取られないような流れや、主人公、そしてそれを取り囲むメンツの、謎発言、謎行動がさらに謎を深める。
じゃあ、『シルバー事件』は、クソゲーなのかと言われれば、そうではない。
『ツイン・ピークス』が、ある一定層の人間の心を釘付けしたように、本作も、深くハマればハマるほど抜けられないスルメゲーとなっている。
例えば、犯罪者の描き方。
本作では、犯罪者は「犯罪力」なるものを持ち、それがウイルスのように他者に移り、犯罪を犯すというものだ。
しかし、その媒介が、テレビ・ネットなどのメディアで、彼らの犯罪を「知る」こと。
翻って、今の世の中、不吉で凶悪な犯罪が連発している。
しかし、その中でも、「ある犯罪」が「別の犯罪」を誘発している。
なにせ、国が隠しても、ネットでそういう猟奇犯罪の現場がいくらでも見れる世の中。
「見る」ことによって「犯罪」が誘発される。
まるで伝染病のように。
これを90年代で予測できた本作は、刮目すべきものではないだろうか?
人を選ぶ作品ではあるが…
というわけで、「ゲーム」というより「参加する映画」と言った趣が強い本作。確かに人を選ぶかもしれない。
しかし、「マルチメディア」という言葉が輝いていた時代。
そこには、新しい表現への星の数ほどの挑戦があった。
そのうちの一つに「映画とゲーム」の融合があったが、『シルバー事件』は、幸せな結婚を果たした一例だと言えよう。
「映画みたいなゲーム」を実現するため、様々なメーカーは血と汗を流した。
そのすさまじい熱気が、「時代」が伝わる逸品!
機会があったら、是非触れて欲しい。
Photo by wikimedia