動く「バンド・デシネ」、アニメ映画『ムタフカズ』

「未だかつてない映像」「革命的映像」

これまでリリースされる新作映画に、ついて回るキャッチフレーズ。陳腐な言葉だ。

しかし、その表現がピタリとハマる、稀有な映画がある。それが『ムタフカズ』だ。

冒頭そうそう、ギャング? いや、実は政府機関。路地裏で、こわもてな男達に追われる女。

彼女は奮闘のかいもなく、ついに頭に金色のパイソンを突きつけられ、そして。
というところで、すこん!と、抜けるような青空が印象的なスラム街のカット。

主人公の独白から、この映画は始まる。テンポがものすごくいいし、キャラクターは、もろ向こうの絵柄。「萌え」なんぞに毒されていない、カラッとした垢抜けたデザイン。そして、全編にわたって言えるのだけど、「汚い」。それも、悪い意味ではなく、「ウェザリング」と呼びたくなる、丁寧に描き込まれた職人芸。

冒頭の主人公のセリフの、ハードボイルドの香りさえ漂うワイズラックに満ちた自己紹介。これには引き込まれる。

このスタイリッシュな映像は、頭からシッポまでぎっしり詰まったタイヤキのように詰まっている。

例えば、公衆電話からかけるところなんだけど、コインスリットから主人公たちを覗くアングル。途中でアメコミ風のアオリが入るばかりか、アメコミに切り替わるわ、モノクロになるわ!あの手この手で感性に訴えてくる!

このように、実写では不可能なカットがバンバン出てくるのも、アニメならではの醍醐味。

押井守監督が、「実写と違い、完璧なレイアウトが出来るのがアニメの強み」と言っていたが、この画面設計の完璧さは、アニメならでは!

それだけでも買いなんだけど、謎の組織から、わけもなく狙われ、謎のプロレスラー軍団が出てくるわ、火星人もどきが出てくるわ、やがて世界征服にさえ関わっていき。という誰も予想ができない筋回し。

それに対抗する主人公が「特に変哲もない」その辺に出てくるニイチャンというのがいい!

で、彼がものすごくかっこいい。なりたいものは「納得できる自分」。トラブル続きでも「物事の良い面を見ようぜ」と言って、ヒステリックにならない。「自然体」なのだ。

某ハードボイルド探偵を評して「あんたはいつも気構えるわけではなく、自然体に徹する。だから苦手なんだ」というセリフがある。その言葉通り、彼はいつも自然体。

そりゃ慌てたり、凹んだりもする。しかし、それにも何か「オトナ」の余裕がある。全編を通したクールな表現とともに、彼に「ハードボイルド」さえ感じる。

で、徹頭徹尾「うまくいかない。」

主人公は窮地に追い詰められてボコボコ。主人公を執拗に追う敵役は、あっけなく何の関係もないギャングにやられる。タイマンするラスボスに放たれた必殺の銃弾は外れる。

世界の命運を負う主人公でさえも、って、これはぜひあなたの目で確かめて欲しい。

けど「うまくいかない」ということは「予想がつかない」ということ。期待はずれのことが起きると、たいてい人間不機嫌になるが、これはうまいこと次が見たくなる「予想外」。それだけ、伏線の貼り方も上手い。

見ているあなたのはるか斜め上の展開。ついてこれるか!?

加えて、敵の設定がおバカ。

『アタック・オブ・ザ・キラートマト』『マーズアタック』が好きな人にはたまらない、ブッ飛んでいるけど懐かしい。それを、リアリティとセンスで、いかにもと納得させてしまう力技!

また、銃の描き方にも惚れた。

はじけ飛ぶ空薬莢。当たったらたとえアイスクリームでも吹き飛ぶ。銃を構える前にまず遮蔽物へ入る。

西部劇のガンマンじゃないんだから、数打ちゃ当たるで撃つときは乱射。

スナイパーのスコープ反射光から居場所を探す。

いかにも「銃でーす。カッコいいだろ」みたいな特別な取り上げ方をせず、なべやポッド。生活の延長上の道具としての雰囲気。

彼らにとって銃は「身を守る道具」であり、「治安維持」の道具であり、「俺と外部との境界線を引く」道具でしかない。

だから、「必要だから」持っていても違和感がない、「警察」「ギャングスター」に対し、主人公たちは「銃」を持たない。

一般市民は銃なんか持たない。

その「アイコン」として、徹頭徹尾「銃を持たない。」この設定が実にニクイ。

彼らは基本的に、銃口を向けられたら逃げまくり、慣れない銃で暴発を起こす。そして、ラスボスとは「素手でのガチンコ勝負。」この「もたない美学」は、彼らが「一介の市民」として納得のリアリティだ。

全編を通して、『アニメ』というより『映画』。映画というより動くコミック。というか、そんなジャンルでくくるのは愚行だろう。『ムタフカズ』は、バンド・デシネだからだ。

『鉄コン筋クリート』など、数々のヒットを飛ばしてきたSTUDIO4°Cだから、おもしろさ保証!

紆余曲折あった後、迎えるエンディングは切ない。ここ数年、いや、今まで観た映画で一、二を争う屈指のエンディングだ。是非あなたの目で確かめて欲しい。

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