良い実写化ってのは、こういうこと。『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』
人気タイトルのノベライズ、ゲーム化と同じく、「人気コミック」の実写版、というのは鬼門だ。しかも実写映画となると、もう絵面からして「コレジャナイ」感が満載のハズレを引くことがある。
しかも、今回のタイトルは『シティーハンター』。いつもはただのスケベ男だが、いざというときには凄腕を発揮する冴羽獠の悪党掃除人家業を描く、北条司の現在まで続く大ヒットロングラン作品ではないか!?
しかし、今回はアタリの作品だ。
おフランス直輸入、実写版『シティーハンター』だ。その名も『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』。
タイトルも「史上最『香』」とひっかけてるのがしゃれている。
これは、もちろんシティーハンターの相棒「香」の暗喩するのと同時に、今回のシティーハンターたちが追う「香水」のダブルミーニングになっている。
今回のターゲットは香水。「テロリスト」や「凶悪犯罪者」じゃなくって、ひと嗅ぎすれば誰でも恋に落ちる香水。これを追ってくれと依頼される。
「世界最強の始末屋」冴羽のターゲットが「香水」!?
この辺で、なんとなくこの映画の「香り」が伝わると思う。
まずは雰囲気。
主演で監督・脚本を手掛けるフィリップ・ラショー。ちゃんと冴羽リョウの「コスチューム」を再現している。赤いTシャツにジャケット。ルパンの赤ジャケット並みに定番だ。
で、一つ間違えば「コスプレしているイタい奴」になってしまう落とし穴と隣り合わせにあるのだが、本作は見事に「着こなしている。」
原作のコスチュームセンスも、「現実的なおしゃれ」なハイセンスなものだったが、主役たちのイケメンっぷりもあってか、それが「こんな服、着てる人もいるよね」という現実的なリアリティを醸し出している。
さらに、日本語吹き替え版。これがすごい。
りょうは神谷明ではなく、山寺宏一が。香は伊倉一寿ではなく、沢城みゆきが担当しているのだけど、これが全く違和感がない。
声がはっきりと似ているわけじゃない。
しかし、雰囲気が似ている。
山寺氏の「もっこりちゅあああん!」とデレデレしている声は、神谷氏そっくりだし、沢城みゆきの香は、うっかりしていたら伊倉氏の吹き替えと間違えるかもしれないくらい、歯切れのいいイキな「会話」をする。
また、りょうの永遠のライバル、海坊主には玄田哲章そしてハニートラップでりょうを手玉に取る!?女刑事野上冴子に麻上洋子(現・一龍斎春水)と、アニメバージョンでお馴染みのベテラン声優がガッチリと脇を固める。
新しいシティーハンターの声を聞くだけでも、かなり楽しめる一本だ。
また、細かいことだが、例えば『Footstep』など、アニメお馴染みのBGM、銃声まで使っているのも、この作品にかけるなみなみならぬ愛を語っている。
しかし、本作はそれだけにとどまらない。
挿入されるギャグのセンスの良さ、テンポが神がかっている。
いかにも洋物マンガのような、ひとひねりあるギャグの連発は、『ミスター・ビーン』に匹敵するキレがある。
そして、そのギャグが小ネタから、大がかりなアクションスタントまで「体を貼っているなぁ」と感動すら覚える。
例えば、古き良き日のジャッキー・チェン。現在を舞台にしたはちゃめちゃアクション映画のような。
あるいは『Mr.Boo』のような、古き良き日の「香港ギャグエンターテインメント」のツボを押されて、つい夢中になってしまう。
また、事件も方も「強力な媚薬の作用で、りょうが男に惚れてしまう」一本に絞ったのもいい。
特に、最近のアニメバージョンの新作。
最近影が薄くなりつつある、80年代的派手なドンパチを楽しめるのはいいけど。
「テロリストVS冴羽。新宿壊滅の危機!」のように、倒すべき敵が日本を牛耳るコーポレーションだったり世界的テロリストだったり、その中でたった数人で「新宿」を守ったり、解決するヤマがいささかオーバーな感が拭えない。
そんな中「りょうの最大のエネルギー源である『女好き』が封じられてしまう」というのは、確かにコピーライトにあるとおり「冴羽りょう最大の危機」だし、なにより「個人的な事情と言うところがしっくりくる。
で、そのことをしっかりと捉えて掘り下げているストーリー構成も見事。
「決してスーパーマンではないけど、頼りになるアンちゃんが、体を張って自由に生きている」という、工藤優作の『探偵物語』を彷彿させる、この「生活感」がたまらない。
全編これ「新感覚」で再構成された作品、なるほど神谷氏や原作の北条氏が絶賛するだけある。
『シティーハンター』という作品を知っていたら、原作へのリスペクトに心打たれ、知らない人でも、粒選りのアクションコメディ傑作として楽しめる。
なにせ、フランスでは観客動員160万超えのヒットを出した作品。未見の方は、見ないと人生損をする一本だ。