映画

『ダーティー・ハリー』とマグナムシンドローム – 銀幕のマグナムとのその周辺

「ダーティー・ハリーと、そのマグナム」が引き起こしたマグナム・ブームは、止まるところを知らなかった。マグナムを抱えた名物刑事、ヒーローの図は、様々な形でオマージュされた。

とりわけ有名なのが、チャールズ・ブロンソン主演の『狼よさらば』ではないだろうか?

狼よさらば (字幕版)

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チャールズ・ブロンソン, ヴィンセント・ガーディニア, ウィリアム・レッドフィール, ホープ・ラング
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主役のブロンソンは、今でも人気が高く、みうらじゅんと田口トモロヲの音楽ユニットに、「ブロンソンズ」なる名前が使われたり、みうら氏もリスペクトが高く『ブロンソンならこういうね』(ちくま書房)という本を出したりしている。

あらすじは次の通り。

「ただの変哲のない普通人。ポール・カージーを襲った悲劇。
妻と娘に囲まれて・・・というささやかな幸せは、まるで不慮の事故のように、三人組の強盗に殺されてしまう。

その日から、カージーの運命は変わり出す。最初は臆病に、通り魔的に「目についたチンピラ」をやってしまう。凶行の直後、彼は一気に吐き戻す。

このリアルさがなんとも言えない、『善良な小市民』の凶行のいたいたしさを醸し出している。しかし、回数を重ねるごとに、その手口は、だんだんと悪党処刑機械みたいになっていき・・・。結局、次々と町のダニどもを対峙していくカージーだったが、ついに敵に巡り合えることはなかった。

しかし、もはや彼には、そんなことはどうでもよかったのかもしれない。そう「悪党処刑人」としての使命に目覚めてしまったから・・・。ラストシーン、チンピラに向けられた狂気の笑顔に、もの悲しささえ感じる・・・。

で、好評につき、続編も四つ作られた。

そして、「ダーティー・ハリー」の影響で、「ヒーローには強力なマグナムを」。われらがコージーは、ウィルディという「オートマテックなマグナム」を使っている。しかも、映画のタイトルは『スーパー・マグナム』

日曜日には洋画劇場にかじりついていた、当時小学生だった私に、このストレートなタイトルは、文字通りハートのど真ん中にストレートを射抜いた。

しかし・・・。記事を読まれている皆様。ウィルディなどという銃をご存じな方、どれくらいおられるだろうか?もし、知っている方がいれば、おめでとう! あなたはつらくキビシイ、ガンマニア道を歩み始めた同志だ!

オートマグを少しこじゃれた感じにアレンジしてみましたという外観は、銃口部はオートマグ。グリップとスライド部は、オーソドックスな45オート風。

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オートマグの後追いで発売された感があるこれは、実は当時、44オートマグをしのぐ45ウィンチェスター・マグナム弾を使用し、文字通り「世界一強力な拳銃」だった。しかも、高圧のガスを噴出するマグナム弾に、安定した作動を提供するため、ロータリーボルトとガスオペレーションというシステムを採用。デザートイーグルに先駆け、この強力弾用のシステムを取り入れていた。

また、バレルの根元には、ダイヤル式のガス・レギュレーターがある。ここで、スライドへ流れ込むガスを調整し、作動不良を防ごうというアイディア。これはウィルディ独特のものだ。わざとスライドを動かさずに、手動で排莢、という「某有名少女暗殺者ゲーム」なことを地でやれる。また、ダブルアクションを採用していることも、唯一無二のマグナム・オートだ。

つまり、引き金を引くと撃鉄も連動して動く、ベレッタM92Fなどと同じトリガーアクション。今やマグナム・オートの最先端を行く、デザートイーグルでさえ、撃鉄を起こす必要があるシングルアクションだ。

このように、実に個性的なつくりをしている、味があるマグナム・オートなのだが、それが「アクがありすぎる」ということなのだろうか。デザートイーグルの成功に押されて、いまいち知名度が低い。ウィルディの方も、「世界最強」と銘打って、.475ウィルディマグナム弾まで作ったのに、後発のデザートイーグルの50口径があっという間にその王座を奪ったこともある・・・。

トイガンでは、唯一、チヨダというメーカーがモデルアップしていたのだが、遠い昔の話だ。カートが勢いよく排莢口から出る、カートリッジ式エアコッキングバージョンから、BB弾だけ入れるケースレス方式。さらにはガス式と、様々なバリエーションが発売。メーカー側の愛着、思い入れを表しているようなラインナップだったが、今やネットオークションでも見かけづらい絶滅危惧種だ。

で、エアバージョンだったら、撃鉄や、バレル上の冷却用の溝穴が開いてない、とか、デフォルメが激しい一品だが、サイズのでかさ、グリップの握りやすさなど、雰囲気は抜群だ。特に、バレル根元のダイヤル、グリップ部分の曲線の妙は、オートマグよりグラマラスなイメージを醸し出している。

どこかのメーカーが、ブローバックで出してくれれば、飛びつくやつはいるはず・・・。

そして、44マグナムと言えば、やはり、この作品を忘れてはならないだろう。巨匠、マーティン・スコセッシによる、1976年の映画『タクシー・ドライバー

よく考えてみると、「中二病がリア充爆発しろ!」と言ってるような作品だが、それでも、こちらに匂ってきそうな重苦しいため息のような深さ、見せ方のスタイリッシュさで、今でも『アメリカン・ニュー・シネマ』の代表作に挙げる方も多いだろう。
いや、それよりも、あのカンヌ映画賞を受賞、そしてアメリカ国立フィルム登録簿にさえ登録され、そして、今なお世界中で世代を超えた魅力を放つこの映画は、やはり「リア充爆発しろ」・・・中二病は、世界共通言語なのだろうか?

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ロバート・デ・ニーロ, シビル・シェパード, ピーター・ボイル, ジョディ・フォスター, アルバート・ブルックス
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もと海兵隊員だったトラヴィス・ビックルは、今や落ちぶれてタクシー・ドライバーに就任する。仲間からは「変わり者」のレッテルを貼られ、孤独な日々を送るトラヴィス。しかし、彼が住む裏路地は、セックスや麻薬がはびこる、退廃した世界だった。
ベッツィーなる女との別れ、そして、一人の少女、アイリスと出会う。しかし、都会の孤独の魔力か。彼はだんだんと唾棄すべき堕落した世界を浄化する計画を立てていく・・・。

銃社会アメリカならではの『ダーティー・ハリー症候群』・・・市民一人一人が「さばけぬ悪は俺が裁く!」という気概をもってしまったことへ全力で描き切った本作。そう、これは、裏『ダーティー・ハリー』と言っても過言ではないかもしれない。実際に、ダーティー・ハリーとタクシー・ドライバーが共演しているシャツも、「マクラウド」というところから販売されている。

で、これにも、S&W44マグナムは登場している。

鏡の前で、一人ポーズを取るトラヴィス。くだらねぇTVに、つまらなそうに銃を向けるトラヴィス。そして、たった一人で、アイリスを助けるために、売春婦の元締めのアジトへ殴り込むトラヴィス。そう、主人公の影のように、まるで自分の分身の如く、M29・44マグナムがその手に握られていたのだ!

スヌーピーのライナスの毛布のように、過剰なほど主人公の手でもてあそばれていたM29は、本作の「孤独と狂気」を演出するうえで、重要な役を担っている。計画していたボンクラ政治家暗殺も失敗し、ついに沈黙を保ったままの44マグナムだったが、悪党のアジトへ乗り込むとき、ついにその牙をむき出した。

くっきりとえかがれる、吹き飛んだ手は今でもはっきりと覚えている。

マグナムの沈黙・・・それはやり場のない怒りと悲しみを暗喩していた。だからラストシーンで、悪党を吹き飛ばした時のカタルシスはものすごかった。

44マグナムの、明らかに対人用としてはオーバーキルな巨砲を、お守りのように持ち歩くトラヴィス。彼の孤独と狂気、そして「正義」のシンボルは、火を噴かない44マグナムだったのだ!

で、実は、このトラヴィス・モデルさえ、トイガンメーカーのタナカによって、再現されている。

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銃身長は8-3/8インチを採用。ダーティ・ハリーモデルより長いのが、印象的な逸品だ。弾丸のリムを落とすための溝、カウンターボアードの再現をはじめ、バレルピンの再現。エジェクター・ロッドのシュラウド変更。はては刻印まで「made in japan」から「made in U.S.A」と、実銃志向の徹底がものすごい。

ダーティ・ハリーモデルとともに、『タクシー・ドライバー』ファン、M29ファン、いや、漢なら一つ押さえておいても、いいシロモノだ。

また、タクシー・ドライバーと言えば、もう一つ、これは挙げなきゃいかんでしょ!というガジェットがある。手を一閃させると、袖口から銃が飛び出してくる「スリーブ・ガン」だ。袖の中に隠してある小型拳銃を射出、一瞬で手のひらに持ってくるこの装置。まるで、小学生がガンプラ作りに夢中になるように・・・。
そして、鏡の前で、執拗に「you talking to me」と繰り返しながら、自分に陶酔しつつ、何べんも何べんもそれを試すシーンは、アメリカ映画協会の「アメリカ映画のベスト100セリフ」10位にランキングした、この映画のもっとも有名なシーン。
ラストシーンでも、至近距離から不意打ちを食らって、銃を落とすトラヴィス。しかし、さっと手を向けた先には、スリーブ・ガンが・・・。

という具合に、主人公のもう一つのアイデンティティ並に、重要な小道具となったスリーブ・ガン。コブラのサイコガン並に、思わず鏡の前で、空想上のスリーブ・ガンを振り回している男子は、けっこうな数があると思われる。

しかし、ついにこの夢がかなった。

映画にちなんだガジェットを数多く送り出している、「マクラウド」が再現したスリーブ・ガン。その名も「びっくる君」だ。

自らも『タクシー・ドライバー』にリスペクトをささげる製作者が、「21世紀にも入ったんだけど、誰も作っていないから、しびれを切らして」作り上げた逸品。様々な試行錯誤・・・その苦難はここを参照http://www.macleod.jp/tbm-taxidriver.htm・・・を経て、ついに出来上がったびっくる君。

動画を見てみると、おおっ!まるで魔法のように、スムーズに手の中に現れる銃が!

なんせ、「銃の射出装置」だ。モデルガン以上に、「なんに使うの? それ。」なアイテムだが、潜在的「タクシー・ドライバー」は、予想以上に多かった。人気を受け、外観まで劇場版に出てきたものを再現ようとする、バージョン3までアップデートした。

実際に、劇場版『るろうに剣心』にまで、ちょい役だが出てきたスリーブ・ガン。ということは、それだけ機能の方も信頼できるということ。さぁ、あなたも、これを付けて、鏡の前で、Let’s「talking to me ?」!

と、いう具合に、『ダーティー・ハリー』が火付け役となった、マグナム・ブーム周辺のガジェットを紹介してみたが、いかがだったろうか?

いや、漢だったら、一度は触れなきゃいかんよ。マグナム。