映画

「俺が今、六発撃ったか、五発か・・・。」 ダーティ・ハリーとその愛銃たち

今やすっかり、「マグナム」と言えば、デザートイーグルの図式が出来上がっている。あるいは、大ヒットしたホラー・ゲーム『バイオハザード』シリーズの最終兵器か?

しかし、「ヒーロー」=「マグナム」の図式を作ったのは、やはりクリント・イーストウッドではないのだろうか? 

1971年生まれの映画『ダーティ・ハリー』は、古き良き時代・・・男の生き方という言葉がキラキラと輝いていたころの、再びよみがえったカウボーイだった。どんな困難にも負けず、自分の美学を貫きとおすガンマン・・・。「フロンティア・スピリット」そんな言葉が、過去の遺物として忘れ去られようとしたときに、正統派の漢がよみがえったのだ・・・。彼のキャラクターこそが、アメリカをはじめ、世界中に受け入れられた大いなる要因だろう。しかも、彼の手には、「世界最強の銃」44マグナムがあった(トップの写真は.44マグナム弾を発射するスタームルガー社レッドホーク)。

ポンチョからスーツへ、そして、最新の装備でリメイクされたガンマンは、いまだに根強い人気を誇る。

現に、WOWOWでも、2012年に、ダーティハリーシリーズが再放送されている。しかも、ノーカットバージョンだ。
カットされたシーンは、今は無き、イーストウッドの声と言えばこの人!「山田康雄」の代役として、「多田野陽平」という方が声を当てられているのだが、これが、本人がよみがえった!ぐらいそっくり!

もともと、声質が似ていたのだが、山田康雄の大ファンを自認してやまない彼。その演技は、単なる山田氏の声のコピーというだけではなく、山田イーストウッドの艶まで再現している。
波多野氏の山田・イーストウッドの吹き替えは、他にもDVD『夕日のガンマン』など、イーストウッドが演じたガンマンの声で堪能できる。クリント・イーストウッド、そして、山田康雄ファンなら、ぜひとも酔いしれてほしい神技だ。

そして、うれしいことに、ダーティ・ハリー版の44マグナム・・・。S&WM29は、なんと、2013年に、市場にリリースされている。ペガサス・システムによるリボルバーの革命を起こしたメーカー、タナカが渾身を込めて作り上げたモデルガン。

その名も『S&W M29 6.5インチ ダーティハリーモデル』だ。

ペガサス・システムの成功とともに、さすがにカートを抜くということはできないが、そのフレーム部の内部システムの忠実さが、マニアに受けたタナカ。そして、最近では、モデルガンにも力を入れている。今でこそ「弾の出る」エアソフトガンが主流だが、やはり日本のガンマニアにとって、ガン魂に火をつけたのは、モデルガンが大きい。

1971年の法規制・・・金属モデルガンの所持の規制・制限、で大打撃を受けたものの、弾が飛び出る以外は本物の・・・いや、本物の手ごたえ、魂を感じさせるのは、モデルガンだった。

銃が持てない日本だったから、銃刀法に引っかからないように工夫に工夫を重ねられ、そして、精巧なメカニズムで、オートなら薬莢がはじき出される。その一連の動作は、まさしく魔法のようであり、メカと言うものはかくあるべし、というものを、昭和60-70年代の小学生の心に強く植え付けた。何よりも、発火アクションのあと、名残を惜しむように、まるでエネルギーの余韻のように糸を引いて吐き出される硝煙。そして遅れてあたりに漂う火薬の香り。

そう、この視覚、触覚、聴覚だけでなく、嗅覚にまで訴えてくるガン体験は、モデルガンのみだ。今や、「トイガン」=「エアソフトガン」な時代に、そんな日本のガン・フロンティア精神を伝えるモデルガンを、タナカが再びリリースし始めたことは、トイガンファンにとって、うれしいことだ。

閑話休題。で、ペガサス・システムを使ったタナカのM29シリーズは、特に精巧なメカニズムでファンの間から一押しされている。

その定評のあるM29が、モデルガンとしてよみがえったのだ。 夢である「大金庫並に分厚いシリンダー開けて、親指以上あるマグナム弾を、パチンパチンと込めていく。」儀式がかなったのだ!当然、ガンマニアのみならず、ダーティハリーファンの間でも「これが究極!夢がかなった!」と激賛の声も上がっている。

しかし、M29を出しているメーカーはいろいろある。ガスガンまで含めると、東京マルイ・マルシン・コクサイなど。そんな中を押しのけて、タナカのモデルガン、M29がウケているわけ。

それは、初めてカウンターボアードが再現されたということ。
リボルバーの弾は、底のヘリが出っ張って出ているので、普通のリボルバーだと、シリンダーを横から見ると、その部分・・・おしりがシリンダーからはみ出すようになっている。しかし、カウンターボアード加工されたシリンダーは、リム部分がそれだけ一回りはまるように、シリンダーの穴があけられている。シリンダーを横から眺めると、見事に弾とシリンダー底面がツライチになっている。

技術が上がった今では、見られない加工だが、それだからここまでこだわったつくりが、何よりも『ダーティ・ハリー・モデル』の名を関するにふさわしいものではないだろうか。

そして、ダーティ・ハリーのもう一つの相棒である、44オートマグの方も、商品化されている。『ダーティ・ハリー4』に登場し、わざわざメーカーのAMTが、クリント・イーストウッドに贈呈した「クリント1」ノーマルの銃身と比べると、延長された8.5インチの銃身も頼もしく、マルシンから、8mmブローバックのガスガンとしてリリース。

実銃は、作動不良を起こしやすく「オート・ジャム(停弾)」などと揶揄されたオートマグ。やはりその特異な「レトロフューチャー」的なイメージを買われて、様々な作品に登場している。

例えば、和製ダーティ・ハリー、漫画『ドーベルマン刑事』にも、主人公の相棒、宮武が、機関銃のような特注30連発マガジンを付けて景気よくぶっ放していたのも印象に残る。
現在なら、アニメ化もされたゲーム『PHANTOM OF INFERNO』・・・そう、『魔法少女まどか☆マギカ』『仮面ライダー鎧武』でおなじみの虚淵玄氏を、一躍スターダムに押し上げた出世作。

主人公の殺し屋少女のマスターが、これに偏執的なまでに愛着を持っているところ。そして、この少女が、あえてこの銃の弱点を「殺して」・・・つまり、スライドを動かないようにして、手動排莢で銃撃戦を行うシーンが、とくに印象的だった。
あるいは、銃についてもうるさい押井守監督も、オートマグが気にいっているのか、自分の映画『機動警察パトレイバー THE MOVIE』で、最後の「箱舟」に突入した時に、香貫花クランシーがバカスカ撃ちまくっていた。

あるいはまた、『イノセンス』でも、中盤のやくざ事務所への殴り込みシーン内で、粋がったやくざが抜いたのもこれだった。撃つシーンもなく、すぐに射殺されてしまったが・・・。

もちろん、その人気を受けて、モデルガンならコクサイ、MGC。エアガンならマルコシ、東京マルイ、マルゼン、その他多数のメーカーから発売されていた・・・というのも、今は昔。
すっかり、デザートイーグルに「マグナムオート」の王座を奪われてからは、あっというまに年代物の骨董品になってしまった。
「売れる」ことを優先した機種選びが先行する市場において、今現在「もう一度オートマグ」を!とチャレンジするメーカーも少ない。

その中で、特にそういう「昔からのガンマニア」が快哉を送るような銃を作ってくれるのがマルシン。

特に、このオートマグも、スライド固定ガスガンから、ブローバックガスガンへと、手を加えている。ここらへんに「銃」への愛着が感じられる。
これは、実銃である「オート・ジャム」のあだ名を吹き飛ばしてしまうほど、作動が快調・・・となればいいのだけど、冬場など寒い気温では、安定した動作は望めないし、ガスの燃費も悪い。ボルトをつなぐねじを、六角レンチでまめにしめなおす必要がある。バネがデリケートで、ある程度修理の腕も必要。

と、手がかかる子なのだが、それでも、この辺さえも、実銃のオートマグを彷彿させていいと思う私は、よっぽどオートマグ病だ。

また、スライド代わりの金属製のずしりとしたボルトを引き、巨大な8mmBB弾を装填。どでかい音とともに、ターゲットに穴を開ける。っていうのは、いかにも「マグナム撃ってるんだぜ!」という気分にさせてくれる。
また、セフティ・レバーの操作で、「空撃ちモード」・・・つまり、弾を込めてなくっても、スライドストップがかからず、反動と音を楽しめるモードが入っているところも、「銃の楽しみ」を分かっているな!とうならされる。
何より、分解ができるというモデルガン的楽しみを味あわせてくれるのも、本銃だけだ。

という具合に、ひそかに盛り上がりを見せているダーティ・ハリー。
永遠の「時代遅れのカウボーイ」、現代によみがえったその活躍をDVDで浸りながら、手には44マグナム、という、究極のバーチャル体験に、どっぷり浸るなら、いつやるの? 今でしょ!

さぁ「Go ahead Make my Day!」