クラシカルメカニカル – 今時の中折れ式リボルバー事情

前回から引き続いて、中折れ式リボルバーの話だ。というのは、エアガン界でも、なんと2013年、中折れ式リボルバーが発売されたのだ。しかも、業界初の「中折れ式」リボルバーとして!

このような酔狂なことが許されるのも、一つは銃についての好みが多様化してきたことも挙げられるだろうが、中折れ式リボルバーの人気が高まってきたということを、暗に示しているのではないだろうか?

と、その前に、前回の記事を読んでいない方のために、中折れ式リボルバーの説明を。

「中折れ式」っていうのは、一昔前のリボルバーの装填方式。フレームと銃身をつなぐジョイント部分を中心に、シリンダーごと銃身が前へ倒れる。その際に、くぱぁと開いたシリンダーに、排莢、装填ができるという寸法だ。

宮崎駿作品にも、『ラピュタ』のムスカ大佐はじめ、軍人。そして『名探偵ホームズ』と、ひょんなところで顔を出す。そう、くぱぁと開けたフレームから、シリンダーが覗く様は、まるでボンネットを開けて、内臓であるエンジンを見るような、メカニカルな楽しみがたまらない。

マイナーだけど「通」好みのイメージを与える。それが中折れ式リボルバーだ。

話を戻すと、近年出されたばっかの中折れ式リボルバー。それが「ハートフォード」の「二十六年式」だ。何せ、業界初の中折れ式・・・しかも、ガスガンで、「BB弾」が撃てるガスリボルバーなのだ。

前作の、同社による、弾が飛ばない、発火と排莢・装填だけが味わえるモデルガンでさえ、日本の主力トイガン雑誌『ARMS マガジン』2011年のベスト・トイガンに選ばれた。

発表時から、ツイッター・ブログなどネット上でひそかな期待を持たれていた本銃は、3万代という高額商品でありながら、追加注文でのリリースを繰り返し、現在も、「ブルーブラック仕様」が作られている。息の長い銃だ。

実銃の南部二十六年式。そう、特に、メジャー作品の主人公に使われるということもない、非常にマイナーな銃。おそらく、この記事で初めて、その存在を知ったという方もおられるかもしれない。ただ、実際は第二次世界大戦を生き抜いた名銃だ。

特に有名な活躍(と言ってよいのかわからないが)としては、二・二六事件で、政治家の鈴木貫太郎が狙撃された、なんてエピソードもある。しかし、「弾が、当たった豚の鼻先からポロリと落ちた」という低威力がウリな銃(笑)至近距離から三発撃ちこまれたのに、見事、貫太郎氏は一命をとりとめた。

日本を代表する銃と言うと、南部十四年式が有名だが、いかんせんオートよりリボルバーの方が、安価で作動不良が少ないというので、こちらの方が数多く出回ったのだった。何せ、明治後期から、本銃は民間流通していた。そう、昔は、現在では信じられないことだろうが、一般人でも拳銃が持てた!しかも、現在価格で言えば、本体四万円ぐらい、弾丸は百発が六千円程度で手に入った。つまり、今の銃と同程度の価格だ。さらに、その美しい仕上げは、進駐軍が戦利品として欲しがるほどで、現在は、コレクター間でも、比較的数があるので、安価。さらに低威力のおかげで、比較的安全に射撃が楽しめるアンティークグッズとして人気がある。

じゃあ、ガスガンの方はというと、どうだろう。華奢ながら、優美な剛性感のある造形は、モデルガン譲り・・・いや、実銃譲りだ。何せ、これを作るために、ハートフォードは実銃採寸をしたぐらいだ。トリガー・ガードを下げると、フレームがアジの開きみたいに開くところも、実銃通り。二十六年式の大きな特徴として、この内部機構へのアプローチが早い=メンテナンスがしやすい、ということが挙げられる。

中を見ると、堅牢だが精密な内部メカニズムが覗く。そう、これまた「実銃」に忠実だ。というのは、この銃は「多弾数ガスリボルバー」の代名詞である、「ペガサス・システム」を導入している。つまりは、シリンダー部にガスタンクと弾倉を搭載しているので、カート式リボルバーに比べて、パワーと弾数が段違いに上ということ。実銃・モデルガンと違って、ブレイク・オープン・・・つまり、シリンダーを開けた時に、薬莢が飛び出さないのを、寂しいと思うか否か。

しかし、この銃は、「中折れ式」を使ってあるので、かなり命中精度が高い。もちろん、内部にカスタムバレルが使われているのも、その一因なのだが、この銃が「中折れ式」であることも見逃せない。つまり、弾倉を横に振り出すスウィング・アウト方式よりも、シリンダーの軸がフレームど真ん中に固定されて、バレルなどとのブレが少ない。

私も、初めて触れてみて、「シティハンター」ではないが、「一穴命中ワンホール・ショットも可能なのでは!?」と思った。実際に、某トイガンカスタムパーツメーカーでも、この命中精度の高さに舌を巻いて「本気でカスタムしてみよっかなー?」なんて声もあるくらい。まさに、一世紀前の名銃が、新しい心臓を得てよみがえった。そんな感じだ。

ただ、見づらい小型なサイト、そして、撃鉄をおろした時点でも、シリンダーストップがかからず、クルクル回って「即ロシアンルーレット」状態になってしまうのは、致し方ない。実銃を忠実に再現するということは、「悪いところ」も再現するということ。また、せっかくの多弾数を可能にした、「ペガサス・システム」を半分犠牲にしたような「装弾数六発」というところも、いただけない。

六発撃ち尽くしたら、前からしこしこと、「一発ずつ丁寧に」弾をいれなきゃならない。しかも、下手するとスゥイング・アウトのカート式よりも手間がかかる。だけど、「俺のラッキーナンバーは、6だっ!」と明言できるようなあなたとは、気が合うかもしれない。さらにハンマーが重い。実銃のパイソン並に重い、という話だが、これをダブルアクションオンリーで撃つと、銃口がぶれやすい。

しかし、見る角度によって、万華鏡のように様々なフォルムを見せてくれるのは、この銃だからこそ!まさに「アンティークな美術品」というにふさわしい。実際に、これをサバゲーで使う勇者も、ちらほらお目にかかる。
「どこへ行こうというのかね。」「三分間待ってやる。」 と、某ラピュタの末裔を気取りたい方、いや、リボルバーが好きな方なら、押さえておいてもいい銃だ。

しかし、このような中折れ式リボルバーのマイナー人気を支えたのは、やっぱりこの銃だろう。マンガ『トライガン』のヴァッシュの銃だ。『トライガン』というのは、内藤泰弘氏の漫画。こことは別の星、地球をはるか離れた、荒野の星で、繰り広げられるSFガンアクションで、まさに「スタイリッシュ西部劇」との名がふさわしい。もちろん、人気を受けてアニメ化もされているので、ご存知の方も多いのでは!?


で、主人公のヴァッシュの銃。これが実にカッコいい。ブレイク・オープン・・・つまり中折れ式なだけではなく、マテバのリボルバー、2006Mのように、銃身下部から弾丸を発射。これは、反動をコントロールしやすくするともに、命中精度の向上を狙っての設計と読み取れる。そのせいもあって、普通の銃身の二倍もあるような、鋼鉄の根のように生えた、頼もしいバレル。

「弱装弾」専門的な中折れ式にも関わらず、45ロングコルトという、「西部の血がたぎる」ぶっとい弾丸を仕様。また、グリップも、まるでふくよかな女性を思わせるフィンガーチャンネル付きのカスタマイズ仕様。サイトなどにも「今風」の意匠がみられる。そして、そこから醸し出される、「中折れ式マグナムリボルバー」といったカンジ!

見ようによっては、一昔前・・・『西部警察』などが現役バリバリで幅を利かせてた時代に、「名物刑事」が持っていたカッコいいマグナム・・・。今はほとんど見かけないPPCカスタムを彷彿させるところが、なんともツボをついている。つまり、かっこいい、というだけではなく、「唯一無二の個性的」という、まさにカリスマ性まで兼ね備えている。これをヒーローの銃と言わずしてなんと言おう。

人気作品なので、やはり需要があったらしく、いくつかのメーカーから、この銃がモデルアップされている。ただ、惜しむべくが、そのほとんどがガレージキットであること。ほとんどハンドメイドに近い、「好事家」の銃なので、価格が高くなってしまうのはしょうがない。そして、弾が撃てない。発火しないモデルガン・無可動実銃のように、あくまで「飾って」楽しむものと割り切らなきゃならない。

最後の難関としてそびえたつのは、「自分で作らなきゃならない。」こと。あれだけ「食玩」がはやった理由の一つとして、「組み立て・彩色済み」ということがあげられる。また、プラモを敬遠する理由の一つに、「うまく組み立てられないから。」というものもあるだろう。ましてや、ガレージキットなどと言うものは、「タミヤのプラモ」のように親切にはできていない。

最初っからパーツがゆがんでいたり、合わなかったりする場合もある。それをいちいち調整しながら、組んでいく。つまり、作り手の腕で極端に完成度が左右される。しかしながら、それでも超絶的な方は、マルイのS&WM19を組み込んで、カート式ガスガンに改造しているツワモノまで現れた。本銃がけっこうセールスをあげたのは、やはり根強い人気があった証拠だ。

その中で、代表的なものと言えば、やはり、『大日本技研』の、その名もずばり『原作版・ヴァッシュの銃』のキットだろう。「物語に出てくる架空の銃」の再現で、鳴らしている大日本技研だけあって、かなり楽しいものに仕上がっている。

例えば、このキットは、中にタナカのガスガン、S&WM29を組み込んで、実際にBB弾を撃てるようにしてある。しかも、こだわりの「銃身下部のバレルから弾が出る」という、原作に忠実な再現も可能。ただ、もちろん、キットの加工に加え、本体のM29の方も、バレル・フレームを切った貼ったしなければならない。細かい工作精度が求められる。

だけど、「初心者救済精度」として、比較的加工を加えずに済む、「無可動モデルガン」として仕上げられたり、バレル部分をいじらなくても、とりあえず弾が出る「なんちゃってヴァッシュ銃」にも仕上げられたりすることができる。難易度選択方式で、ちょっぴりとっつきやすくなっている。

ただ、残念ながらすでに絶版。もはや、ヤフオクなどでも見かけづらくなってきている。加えて、プレミア価格までついている高嶺の花。しかし、困難が高ければ高いほど、手に入れた時の喜びもひとしお、かもしれない。人を選ぶタイプの銃だが、トライガンファンだけではなく、中折れ式リボルバーが好きな方、そして「一味違う銃が欲しい」と考える方。一考する価値はあるのではないだろうか。