進撃を続ける小さな巨人 S&W チーフスペシャルとその周辺

今回はスナブノーズ・リボルバーの代名詞ともなったチーフスペシャルの話をしたい。

誰の心にも「聖域」と言うものがある。そして、ガンマニアなら、「聖銃」という領域のものがある。私の場合、スナブノーズ・リボルバーも、その一つに含まれる。スナブノーズ・リボルバー、つまり、「獅子っ鼻のリボルバー」とは、文字通り銃身2インチぐらいの、極端に銃身が短いリボルバーのこと。

きわめて携帯・隠匿性が高いこの銃。刑事・スパイ、そして、宇宙海賊まで、スーツ、足首、袖の下など、「何ぞごとあったら」すっ、とその牙をむいて敢然と敵に立ち向かう。特に刑事もの。「日常性」の暗喩である、ノーマルのスーツから、すっと出てくる「非日常」に対処するために出てくる小さな巨人。

このアンバランスさが心地よかった。加えて、携帯電話を見ればわかるが、やはり持ち歩くのならより小型・軽量なものがいい。ましてや、銃なんて、当時は鉄の塊なのだ。腕の太さほどもある、巨大なリボルバーを振り回す名物刑事もいいが、このような「日常生活」のリアリティを感じさせるスナブノーズ・リボルバー。若い頃模型店でで手にした、S&W チーフスペシャルのステンレス版、M60。同系でブラックスチールモデルのM36があったが、M60の、小さく光る白銀は、まるでマグナムのように頼もしかった。実銃も、メンテナンスなしで撃ったとしてもへたれない。そんな噂も頼もしい。それがすべての始まりだった。

リボルバーを作らせれば、右に出るものがいない、アメリカを代表するガンメーカー、S&W社。そして、現在までロングランを誇っているのが、同社の最少の銃の骨格、Jフレームを持つ、「チーフスペシャル」シリーズ。リボルバー最大の長所「いつでも、どこでも、確実な作動」に加え、大人の手のひらに包み込めそうな小ささは「紙切れのようにかさばらない。」

それが大ウケして、世界各国の法的機関が採用。特に「秘密捜査官」など、身分を隠して行動しなければならないアンダーカバーには、切っても切れない仲となっている。日本でも、おまわりさんが吊っているのは、ニューナンブとともにこれだったし、今はその後継銃である、M37エアーウェイトが採用されている。

といっても、軽合金で再構成されたチーフスペシャルといったカンジなので、外見、作動はほとんど前作と変わりがない。大体が「日本のポリスマン」なんて、一生で一発撃つか撃たないか、ぐらい銃とは無縁なもの。だけど、職務上「タテマエ」として持ち歩かなければならない。ならば、チーフは、「銃はなるべく邪魔にならないもの」というチョイスにぴったりだ。そもそも、ニューナンブ自体が、チーフスペシャルのコピーなんだから。

また、フィクションの世界でも、刑事・探偵ものと言えばこの銃。特に有名なのが、ギャビン・ライアル著『深夜プラスワン』。主人公とパートナーを組む、アル中のガンマン、ハーヴェイ・ロヴェルの愛銃ということだろう。

彼は、車での移動がメインになるというこのミッションに対して、狭いところでも振り回せる、この小型リボルバーをチョイス。現実の世界でも、数発撃ったらカタがつく。なのであえて装弾数を押さえ、必要最低限な弾数と「相手に深刻なダメージを与える」威力・・・つまり38スペシャル仕様。この選択の渋さが、私だけじゃなくって、ガンマニア諸兄のハートをがっちりキャッチしたのは、言うまでもないだろう。そして、問答無用なハードボイルドの代表する探偵・・・。フィリップ・マーロウがこの銃を使っていたのも、この銃の認知度を挙げた。

反動は世界最強の「44マグナム」張りにキツイし、銃身が短いので命中精度に難があるそうだが、それをおしてなお、いまだに愛用され続ける不滅の巨人。それが、チーフスペシャルだ。

そして、人気商品なのでS&W社も、スチール製のノーマルモデル、M36。ステンレス仕様のM60。抜き撃ちの時に、撃鉄がポケットに引っかからないための、撃鉄を隠すカバー「ハンマーシュラウド」付きのボディガード。撃鉄自体を省略した、センチニアル。さらには、メーカー純正のカスタムである「パフォーマンスセンター」加えて、今はなんと、357マグナム対応にまで進化している。

それに負けじとか日本のトイガンメーカーも、古くはMGCのハンド・エジェクターから、最新はコクサイのチーフシリーズまで、多種多様なモデルが出ている。しかし「弾が飛び出すエアガン」としては、タナカとマルシンが二台巨頭だ。特に、タナカでは、「ガスタンク・弾倉」をシリンダーに収めたペガサス・システムで、高い命中精度、パワー、そして六発以上の装弾数を組み込むことに成功した。加えて、実銃のグリップがくっつくことも、うれしい。いや、モデルガン・エアガンを含め、やはり機構が「おもちゃ」ということでデフォルメされているので、実銃のグリップが微妙に合わず、くっつけられない。ということがある。

しかし、タナカにはそんなストレスがあまりない。

何せ一世紀近いシェアを誇るチーフスペシャルなので、グリップの種類も、温かみ抜群な木製グリップ、豪華なパールグリップ。レーザーサイト付き。あるいはまた、手のサイズに合わせて、細身から太めまで、いろいろなサイズのグリップが試せる、というのも心強い。さらに、そのバリエーションの豊かさ。

先ほど言った、ボディガードもそのバリエーションにある。「肩をいからせている」チーフ、とあだ名がつく独特のフォルムも堪能できる。もちろん、日本警察御用達の現役おまわりさん銃。M37もラインナップに上げられているのも忘れてはいけない。刻印の違い、そして、ランヤードリングまで再現されてる、このきめ細やかさ。本銃を手にして、日に日に危険に立ち向かう警察官の心意気に触れる、というのもありか。

また、純正カスタムモデルである「パフォーマンスセンター」もばっちり再現。直線で再デザインされた一回り太いバレル。ローダーが使いやすいように、一部が削られているサムピースなどは、「近未来SF作品」に登場しそうな格好良さを誇る。

そして、センチニアルまで登場したこと。センチニアルは、遠い昔の、モデルガン全盛期。今は無きトイガンメーカー、MGCから発売されていたのだが、絶版。「どこかのメーカーが出してくれないかなー。」というのは、マニア間の長年の切望だったんだが、このたび、タナカが発表。まずは「モデルガン」として発売、と言うところも、なかなかツボを押さえた展開。

これがガンマニアにもろ手を挙げて受けいられて、すぐさまガスガンバージョンも登場。今や少しずつマイナーチェンジを加えて発表されている人気機種に。初心者にも、筋金入りのガンマニアにもおすすめできるモデルだ。

一方で、マルシンの出しているチーフスペシャルは、ライブカート。つまり、実弾を模したカートリッジに弾丸を込め、実物どおりの装填、排莢も楽しめる。かなり長くマイナーチェンジを経て、作り続けられているのはこれ。何せ、カート式ガスリボルバー第一号を作ったのは、マルシンのS&W・M29だし、第二弾として作られたチーフスペシャルは、その小型化で、リボルバーファンの度肝を抜いた。

本格的「カート式」リボルバーを作るのは厄介で、シリンダーにガスタンクが置けない以上、グリップにガスタンクを置く。やはりシリンダーから薬莢が排莢できないと、誰もリボルバーとは認めてくれないだろうからだ。では、そこへどうやってガスを送るか?となると、ハンマーやトリガーを邪魔しない複雑なガスルートを作るしかない。そこで、ガスのロスができてしまう。さらに言うと、シリンダーとフレーム。そして、カートとガス発射口も、常に動くので、どうしても隙間が空いてしまう。

これだけの難関をクリアしてできたリボルバーは、弾が5mいかないうちにお辞儀する。90度はイってるんじゃないか?というホップがかかる、パワー・精度とも、とても、期待できるものじゃない。撃ち合いのときも「くっ!38の豆鉄砲じゃな!」と言いながら、当たらない的に苦戦をしつつ、五発という少ない装弾数で、苦戦はしたが、この「刑事シチュエーション」がたまらなかったのだ。

しかし、当時は、とにかくカートが排莢できる、モデルガン感覚だったので、性能期は二の次。それよりかは、この小さな体から、弾が出る、という奇跡にみんな感動していた。その人気を裏付ける証拠に、ステンレスバージョンのM60、三インチ銃身、さらにはボディガードまでも作られた。

そして、ついに同社が誇る8mmバージョンで、最終形態をたたき出した。

マグナムか!という巨大な弾が、轟音とともに、狙ったところに穴を開けてくれる!全弾、地面か金星に旅立ったあの時代とは違う、そこそこ使えるリボルバーに進化したチーフスペシャル。8mmのモノと、リアルな弾頭を模した6mmXカートリッジがある。旧式の貧弱さをしている方には、感涙物だ。

だから、私としては、ぜひともカート式をおしたい。そして、そういう「リボルバーは、極端にかけた性能を、妄想・・・いや、魂でカバー。」な時代をあったことを思い出しながら、最新のよく当たるチーフを再認識してもいい。