「違いのわかる男」に!『モデルガン女子』
最近、ひそかにモデルガンが盛り上がっている。
ルガーP08の原型となったボーチャード・ピストル。「スーサイド・ナンブ」などという不名誉な名前を付けられた九十四年式拳銃。単発しか撃てない必殺のレジスタンス兵器「リベレーター」など、マニアが待ち望んでいた銃が、つぎつぎモデルガンとしてモデルアップされている。
いわゆる「高級モデルガン」になっているが、それはそれだけ、採算の取れるほどファンがいるということ。実際に、あの若者向けガジェットのカリスマ雑誌、『MONOマガジン』でも、「日本の傑作品」として、モデルガンが取り上げられている。雑誌によれば、海外製他者のライバルと張り合ってしのぎを削る、ということがないらしい。世界でも類を見ない厳しい銃刀法で鍛えられた日本のモデルガン。その精密さ、アクションは、世界に唯一無二。
実際、皮肉なことに銃の所持を認められているヨーロッパさえ「実銃はあぶないから」と言って、モデルガンが売れているらしい。その時に選ばれるのが、やはり日本製のモデルガン。
かくも素晴らしきモデルガンの世界。しかし、モデルガンと言うのは敷居が高いらしく、なかなか手を出そうとする人がいない。BB弾が出ず、出るものは火花と激発音。パワーソースに火薬を使う。撃つたびにクリーニングして火薬カスを取らなければいけない。エアガンとはまったく違う世界の前で、躊躇している方もいるかも知れない。
その入門誌にもってこいな本がある。これを読んで、あなたも違いの判る男に。
その本の名は『モデルガン女子』(こだま家・463円)書店での一般流通はしていない、同人誌だ。いきなり、こっちへ向けて銃口を突き出してるあどけない少女が読者を歓迎する。しかし、なんというか、その表情が、いい意味でゆるく、なごみ系オーラを漂わせている。
手に持っている弾丸マスコットも、ゆるふわ感が半端ない。この表紙が、私にこの本を取らせた一因の一つ。「銃」の世界と言えば、「用件を聞こうか?」「テメェに三つめの鼻の穴作ってやろうか?」「タフな仕事だったぜ。」みたいな台詞がポンポンと思い浮かぶ。
ゴルゴ13のような男の世界。女が出てくるとしても『ブラックラグーン』のレヴィ姉さんというガッチガチなハードボイルドの世界が真っ先に思い浮かぶのではないのだろうか。
それと正反対のような、このなごみ系、自然体な少女が、かたくなな私の心のカギを開けた。という具合に、「モデルガン」=「固く冷たい世界」という壁をぶち破る魅力がある。この本には!
中を覗いてみると、年端もいかない、学生服の少女から「357マグナムが撃てるんです。」「SAAには独特の儀式が存在します。」などと言う、ハードボイル度満点な台詞がポンポン出ることに、軽いめまいが。となると、こう言うハードボイルドな台詞を吐ける、あどけない顔の少女たちのプロフィールが知りたくなるじゃないですか。
例えば、モーゼルM712のまがまがしい魅力に取りつかれた彼女。「自宅にはマイかき氷機と各種シロップがそろっている。夢は氷屋さんから角氷を買って最高のかき氷を食べることだそうです。」(本文抜粋)か・・・かき氷!ストックホルスターなど、各種オプションパーツを血眼で探している彼女の夢は「かき氷!」男の中の男オーラ漂うモーゼルと、女子のファンシーな夢が強力にタッグ!まるで、女装したジョセフ・ジョースター張りにインパクト!
ほかにも、映画『ゴッドファーザー』シリーズ。『アンタッチャブル』でおなじみ。トンプソンひいきのあの子は、「好きな食べ物はデメルのザッハトルテ。料理部。お父さんがお土産で買ってきてくれるのを、いつも楽しみにしている。今年は、お小遣いをためて丸ごと食べようと密かに画策中。いつもダイエットを考えているけど甘いものには勝てないようです。」(原文より)シカゴ・タイプライターの異名を持つマシンガンの硝煙の香りは、ザッハトルテっすか!?
頭の中で流れている、『アンタッチャブル』の荘厳なテーマの中、乳母車の中にはザッハトルテ満載!というか「好きな食べ物は、にしん蕎麦」とか「鏡に向かってポーズを取って、俳優になりきる」など素敵ガールズキーワード満載!独特としかいいようがない雰囲気を醸し出している。
しかし、それは逆に言うと、文章にそれだけリアリティがあるということ。例えば、キャッチフレーズ。ピースメーカには「その儀式は都会の喧騒を忘れる。」とか、P230JPという日本警察特別仕様銃には「女子はいつでも特別仕様なのです。」と、グッとくるキャッチフレーズが満載。
また、一番のウリである「銃」のイラストもいい。と言うのが、最近のイラストで、銃を少女に持たせるというシチュエーションがたくさんある。とはいっても「銃に持たせられている」感じのイラストだったり、逆に「美少女」メインで、「銃はアクセサリーか、こら!」と突っ込みたくなるイラストだったり。そんなのが多数見受けられる。しかし、著者コダマジンガー氏の絵には、そんな感じが一切ない。銃と少女のバランス、ナチュラル感がものすごい。なぜか、と考えてみると、「銃のサイズ」が的確。ということに思い当たった。
不自然なイラストというのは、銃がでかすぎたり、小さすぎたりしている。つまり「女の子」のサイズが前提としてあり、銃の方をサイズ調整してある。
その結果として、M19コンバットマグナムが幼児サイズになっているなどという悲劇が生まれる。M19は357「マグナム」でっせ!銀玉鉄砲じゃごじゃりませぬ!だけど、コダマジンガー氏が描く銃は、実物大のにおいがする。そして、「実物大」のものを持ってもおかしくない少女のサイズがぴったりとマッチしている。
銃の方も、よく見てみると、モデルガンの銃口を塞ぐインサートが見えていたり、シリンダー前方を覆うインサートが見えていたりと、芸が細かい。本当にモデルガンが好きなんだな、と痛感させられる。
モデルガンのチョイスもよい。「ルックスがイイ」「知名度がある。」人気のド直球の機種を紹介している。KSCのSIG SAUER 230JPというナウなモデルから、ハートフォードのシングルアクションアーミーまで、銀幕を横切りまくる銃が満載。レトロから最新の定番を取り揃えているのがうれしい。
最近のモデルガンの傾向として、マニアが喜びそうなものばかりリリースしている。
例えば、先ほどのMONOマガジンで取り上げられている、MULE社のボーチャード。トイガン界としても、初めてのモデルアップ。実銃の部品と互換できる精密さは、まさに「生きる資料」として貴重だ。確かに、私だってルガーP08の原型となったボーチャードは欲しい。しかし、トイガン初心者で、ボーチャードなどという銃を知ってる方がどれくらいおられるだろうか?ライトユーザーが、「ボーチャード」が出た!すげえ!と聞かされても、「ふうん。」の一言で流されてしまうだろう。しかし、「南部二十六年式」「チャーターアームズ44ブルドッグ」みたいな、ライトユーザーなら首をかしげるシロモノが、モデルガン界でははやっている。
エアソフトガン界とは一味違うのだよ!という主張。マニアックなツボをつきまくる製品で、マニアの心を釘付けにする方針なのは大変うれしいけど、「誰が買うのよ?」という疑問詞もつく。その点で、「メジャーな銃」ばかりチョイスしている本作のラインナップは、十分にビギナーにアピールできる。
加えて、発火性能が良いものを選んでいるのもうれしい。
モデルガンと言うのは、残念ながら箱出しですぐ遊べる、と言うものは多くない。発火しない。ジャムが起きる。フルオートになる。どこかしら調整をしなければならないものも多い。しかし、これもまたモデルガンの敷居を高くしている一因だ。せっかく大枚をはたいて買った新品が、撃ってみるとまともに動かない!ユーザーをげんなりさせ、果てはメーカー側にクレーマーの鬼と化しそうになるのが、その一瞬ではないだろうか?
しかし、『モデルガン女子』で紹介している銃は、比較的安定した作動を見せる名銃ばかりなので、そんなリスクを回避できる。また、キャプションも初心者にとってわかりやすく、一方で「口径と刻印が違う。」など、しっかりとマニアのツボをつかむところもチラ見えするのもうれしい。モデルガン初心者にとっては、チョイスのための強力なバックアップになってくれる逸品。
個人的な経験からも、本稿で紹介されているマルシンのモーゼルM712だけは注意してもらいたい。『モデルガン女子』でも紹介されているように、かなり気難しい銃だ。何せ、私は新品で買ってきたのに、薬室に弾を送りこむだけで発火・暴発。トリガーさえ引いてないのに、ワンマガジン空になった。「新品」でさえこうだ。
ただ、西部劇に出てくるオートの顔役と言えば、やはりモーゼル。マルシンは。もちろんモーゼルM712のガスガンも出している。しかし、残念なことにイマイチな出来!単発と連射の切り替えが甘い、ショートマガジンが役に立たない、そして、メカのディティールがおかしい。完璧なモーゼルはモデルガンだけ!
映画名作『殺しが静かにやってくる』『シノーラ』などの主人公になり切りたければ、覚悟して買うしかない!そして、今を時めくアニメ映画監督、押井守ファンなら、初期作品にモーゼルは切っても切れない仲だ。
『モデルガン女子』違いのわかるオトコになりたければ、是非これを!同人誌通販サイト「ZIN」にて、通販でも店頭でもゲットできるぞ!
COMIC ZIN 通信販売/商品詳細 モデルガン女子(レッド)
また、著者であるコダマジンガー様のページはここ。
モデルガン女子<MODEL GUN GIRLs>
『モデルガン女子』の続編、あるいは強力な新企画など、何か新しいサプライズがあるかも!?年末には、まったりと、しかし懇切丁寧にモデルガンを解説してくれる『モデルガンを始めてみたいなと思った時によんでみてほしい本』の改訂版を出すそうだ。ビギナーには朗報!マメなチェックは必須!
※文中の「モデルガン女子」の画像は作者コダマジンガーさまより許可をいただいて掲載しております。無断転載はご遠慮ください。