古き良き時。ブローニング・ハイパワーとジャック・ヒギンズ
ブローニング・ハイパワーという銃
実銃では、「コルト45オート」を作りあげた天才銃器設計者、ジョン・M・ブローニングの最後の傑作とされている。
第二次世界大戦では、連合国、枢軸国を超えて兵士たち、レジスタンスたちに握られた銃。世界中50ヵ国以上で公式採用。今でも、MkⅢとして小改良がくわえられて、現役で売り出されている。45オートに続く長寿を誇るのは信頼性の証だ。
しかし、銀幕では恐ろしく不遇な銃だ。
ざっと上げても、ブローニングが主役の手に握られ、華々しく活躍した作品は、片手で数えるほどしかない。
映画『ヒバリービルズコップ』シリーズでは、主人公アクセル・フォーリーの愛銃として登場。軽口の中に見え隠れする「プロの本気」80年代アメリカの人種の壁もなんのその、軽快に活躍する彼の手に、細身のブローニングはよく似合った。そして、『バイオハザード2』で、ヒロインのクレアの愛銃として出ている。
マニアな話をすればきりがない。ぱっと思いつくのはそれくらいだろう。
確かに、ブローニング・ハイパワーは、そう目立つ派手さはない。知らない人が見たら、コルト45オートと区別がつかないだろう。
何せ、生みの親が同じ。デザイン・コンセプトが似てくるのは仕方がない。しかし、45オートを9mmにダウンサイジングしたデザインは、手の小さな日本人にもしっくりくる。45オートの野暮ったさをすべて取り除いたようなデザインは、無駄な贅肉がない。そのくせ、戦闘機やF1マシンのような色気をかもしだしているのが、なんともスタイリッシュだ。
声優、大塚明夫氏も言っているように、芝居は色男や美形だけでは存在できない。いぶし銀もいなくては。ブローニング・ハイパワーというのは、実にそういう銃だ。実はアニメ『カウボーイ・ビバップ』でも、主人公がひそかに相棒としていたのがこれ。
第一の愛銃「ジェリコ941」とともに、二丁拳銃でぶっ放される時に使われていたのが、ブローニング・ハイパワーだった。で。負傷して取り落とされるのも、こいつというのが涙を誘う。
アニメ『戦闘メカ・ザブングル』、映画『フレンチコネクション2』にも、さりげなくこいつが出てくる。
そのスタイルがシンプルだからだろうか?SFでも現代劇でも、不思議とはまる。この辺が時代を超えたブローニングの変わらない魅力だろう。そう、よく目を凝らしてみると、あんな映画、こんな作品に時々姿を現す。まるで『ウォーリーを探せ』みたいな銃だ。
このような「ブローニング探し」も楽しいのだが、それにしても実力に反して、地味なこの銃。何せ、現在トイガンとして出されているのは、タナカとマルシンのみだ。
マルシンはモデルガン。業界初の「カート内発火」プラグファイヤーカートにより、快調な発火を約束。それまで「オートと言えばジャム」問題に頭を悩ませていたガンマニアを解放した革命的な一作。さらに言えば、二度にわたる法規制で金属モデルガンが壊滅的ダメージを受け、プラスチックのモデルガンに絶望しかけていたモデルガンファンへの朗報になった名作。タンジェント・リアサイト付の「ミリタリーモデル」から、中国製刻印が入った「チャイニーズ」モデルまで、多彩なラインナップが頼もしい本作。80年代から現在まで少しずつ改良を加えられながら生産が続いていることこそ、名作のあかし。
一方、タナカのものはガスガンだが、これまたマルシンに負けず劣らずの豊富なラインナップ。モデルガン。いや、実銃に忠実な外観と機構の再現は、モデルガンに劣らない!ガスガンのくせに!
しかし、トイガン界でもたった二つしかリリースするメーカーがない、というのは、いささか寂しい話ではないか。今回はそれが好きになる物語を紹介しよう。
まず初めに、『非情の日』。冒険小説の金字塔『鷲は舞い降りた』の作者、ジャック・ヒギンズの手による小説だ。
当時学生時代だった方々で、冒険小説をかじり始めた方にとっては、『鷲は舞い降りた』の名は、特別なものではないのだろうか?『非情の日』も、コンパクトな中に、お宝、美女、英国情報部に、気の利いたジョーク。一転二転するストーリーテリング。まさに冒険小説のエッセンスがぎゅっと詰まったお手本。
導入はこうだ。
「IRA一派に奪われた黄金を取り返せ!」
武器密輸のかどで、年の懲役に伏された元英国諜報員サイモン・ヴォーン少佐。その自由と引き換えに課されたものは、アイルランドの軍事組織IRAの、分裂したテロ一派に奪われた50ポンドの金塊奪回だった。
冒頭の会話。ヴォーン少佐の密輸に対してのやりとり。
「反乱軍に鉄砲を渡すために、人気のない海岸に真夜中に上陸するとは、君はどういう人間なんだね。最後のロマンチストか?」
こう来たか!このやり取りで一気にハートをわしづかみ。時代の流れによるIRAの分裂。その挙句にテロ組織を生み出さねばならなかった歴史を巧みに織り込んだプロットは、一種の歴史小説を彷彿させる。そして、最初から最後まで活躍するブローニング・ハイパワー。
このような冒険小説に欠かせないのが、銃撃戦。サブマシンガンには、ステン・ガン。そしてハンドガンにはハイパワー。まさに英国の代表的な軍装備のオンパレード!
この作品だけでもなく、ヒギンズの作品にはIRAと、イギリス諜報部が絡んでくる作品が多い。銃器がその雰囲気をいっそう盛り立てる。ブローニングファンだけではなく、ガンマニア。そして、冒険小説、ハードボイルド好きの方。すべての方々におすすめしたいヒギンズ作品。その入門に『非情の日』はおすすめだ。
何よりそのコンパクトさ。大長編が多いヒギンズ作品の中、比較的短めなので手軽に読める。完成度も、このボリュームのヒギンズ作品の中では断トツ。まさに、ヒギンズ作品のエキスをぎゅっと濃縮したような一本。
これで、さらなるヒギンズワールドへ旅立ちたくなったら、『死にゆく者への祈り』(ハヤカワ文庫)もおすすめ。
これまた短く、とっつきやすい。しかし、ヒギンズと言う作家のストーリーテリングが十二分に味わえる。もちろん、冒頭からハイパワーが大活躍する。これを読めば、ブローニング・ハイパワーという銃が欲しくなること請け合い。
ブローニングハイパワー、そしてジャック・ヒギンズ。未体験の方にはこれをきっかけに興味を持っていただければ幸いだ。
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