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猫が演じるハードボイルド『ルドルフとイッパイアッテナ』

かの、モハメド・アリは言った。

「友情なんか学校で教えてくれるもんじゃない。だけど、それを知らなければ、何一つ学ばなかったのと同じだ。」

私も声を大にして言いたい。

「座右の本は、だけも教えてくれない。だけど、それを知らなければ、人生を知らないのと同じだ。」

例えば『ルドルフとイッパイアッテナ』(斉藤洋・講談社)

もしかすると、小学校の感想文の課題図書に選ばれて、そのままファンになった方もおられるかもしれない。その『イッパイアッテナ』が、スクリーンに帰ってくる。

監督は、湯山邦彦、榊原幹典。脚本が加藤陽一と、豪華キャストになっている。そして、キャストも、ルドルフが、井上真央。鈴木亮平にイッパイアッテナと、今が旬の俳優が声を固める。
ルドルフのかわいらしくて、だけど芯が通ってる強さが出ているところもいい。だけど、ここはイッパイアッテナの声も一押ししたい。渋い!まさに正統派オヤブンの声は百獣の王!?NHKの『母と子のてれび絵本』で、毒蝮三太夫のユーモラスだけどどすが利いた声とは、一味も二味も違う。

今回は、セルアニメーションではなく、ピクサー映画のようなCGが使われているのにも注目。人形アニメのマンガらしさと、実写のリアリズムをいいとこどりをしたような映像は『ルドルフとイッパイアッテナ』世界にぴったりだ。


映画『ルドルフとイッパイアッテナ』公式サイト

夏休みになるとやってくる地獄の使者。その名は「読書感想文」。特に、戸外で体動かす専門な方にはつらい。そして、その対象になった本は、たいてい小難しく、つまらない。いや「読書感想文課題図書」という名がついた途端、つまらなくなるのか?しかし、『ルドルフとイッパイアッテナ』は違っていた。

軽妙洒脱な文体は、冒頭からぐいぐいと読者を引きずりこむ。いまどきのライトノベルに匹敵するくらい読みやすい。しかも、ライトノベルでは逆立ちしても出せない教養が、短い文にギュッと詰められている。
また、一見頼りなさそうだが、実は思ったよりしたたかで強い芯がある主人公。ルドルフ。ヤクザの大親分か?!と言わんばかりの貫禄オーラを放つイッパイアッテナの心地よいべらんめぇ口調。人間に置き換えたら「いるいる」とうなずきそうなキャラクターのリアリティ。

和製スペースオペラの大元締め、野田元帥に言わせると、いい作品は「このキャラとお友達になりたァい。」というキャラがいるとこ。
この作品は、実に軽々とそのハードルを超えた。特にイッパイアッテナ。一見オヤブン肌に見える。しかし、その裏では繊細でやさしい心を持つ。それは彼が悲しい過去を持つから。
この辺は、ぜひ本編を読んでほしい。主人公のルドルフを始め、そのような心のひだを持つ人物(猫物?)に描かれている。

考えてみれば、人間そのような表裏があるから面白い。そしてドラマが生まれる。また、それでいて、ミステリーの謎解きのように、頭を使わせるところもある。ルドルフもイッパイアッテナも、文字がわかるというだけで、ただの人(猫)だ。別段、腕っぷしがトラ並に強いわけでも、超能力が使えるわけでもない。その二人が、暴力に訴えず、頭脳をフルに使って、口先を武器に難局を乗り越えるところがいい。

「名探偵は誰でもなれる。鋭い観察眼があれば。」と言ったのは、某有名ミステリー作家だが、このどこにでもいる感が、いっそう親近感を醸し出す。第一巻で、ルドルフが、地名さえ知らない自分の故郷を見つける展開。そしてそこへ帰還する方法なんか、頭脳プレイを感じさせるまた、最新作『ルドルフとスノーホワイト』。(そう、四巻までシリーズ化されているのだ!)
後半、まったく手がかりがないところから、迷子になった子猫を探し出す手腕は、名探偵コナンも真っ青だ。だてに課題図書になっていないのは、今まで四巻シリーズとして出ている証拠。一回手に取った人には懐かしい。これから読み始める人にとっては新しい。この読書体験を是非してほしい。せっかくの「夏休み」なのだから。

この映画に準じて書き下ろされたノベライズ版にも注目。くせのない文体で、すらすらと読める。子どもはもちろん、「時間がないから通勤電車で。」というおっきなお友達にもグッド!
ただ、原作よりキャラが立ったキャラクター。そして、ラストはやはり涙が。

この物語では、誰も死なないし、誰も去らない。だけど、だからこそ、ラストで描かれる「ひきつぎ」に、「命の引き継ぎ」を見てしまう。さりげない描き方だから、いっそう切なくなる。
映画なりにアレンジされたストーリーだから、一味違うエンディング。

というわけで、生まれ変わった『ルドルフとイッパイアッテナ』劇場が先か!?それともノベライズが先か!?名作はこうして語り継がれる。その現場をぜひ見に行こう!

というか、そこはかとなくハードボイルド感じさせる本作。というのが、出てくる猫たち。心底から通じ合っているのに、べたべたしていない。一匹一匹が独立しているのが、やはり猫ならではなのだろうか?そして「シマ」=「なわばり争い」「メンツ」そして「ケンカ」さりげなく任侠ものの香りが入っているのが、実にハードボイルド。案外猫とハードボイルドは、相性がいいのかもしれない。

というわけで、児童文学の中で、猫が主人公、そしてそこはかとなくハードボイルド度が高い二作品を。

『ひげよ、さらば』(上野瞭・理論社)

ジャンルは児童文学だけど、一皮むけば『仁義なき戦い』の猫版。あるいは、終戦後間もないころ。テキヤやら闇市やら、得体のしれない人々が闊歩していた。その混沌を感じさせる。
猫たちのユートピアを目指す猫「片目」と、その相棒で記憶喪失の「ヨゴロウザ」の冒険を描くのだが。流血当たり前。いつ裏切るか裏切られるかわからないスリル。文字通り「命がけ」の戦いの果てに、彼らが見たものは・・・。

『100万回生きたねこ』(佐野洋子・講談社)

王道中の王道。というか、『カウボーイ・ビバップ』の最終回。敵地にたった一人、殴り込みをかける主人公スパイク。その最後のあいさつに、本作が引用された。このエピソードだけで、この話のハードボイル度さがわかるというもの。

以上、二作品だけど、『ルドルフとイッパイアッテナ』が好きな方は、間違いなくはまるはず。いや、子どもの本の中にもこんな名作が埋もれているのか、と、驚くことウケあい。一人でも多くの方に手に取っていただけると嬉しい。


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