『マッドマックス』的、世紀末な銃 – ソウドオフ、M29、脇役のモーゼルミリタリー
2015年に公開された『マッドマックス 怒りのデスロード』。30年ぶりの新作だったがいざ公開されてみると、期待を裏切らないマッドなバイオレンスさ炸裂な傑作に仕上がっているということで、評判も上々。映画館、そしてTV洋画劇場、と、子どものころこの洗礼を受けた方には、懐かしく、そして新しいサプライズだった。
今回は、暴力のアイコン。「マッドマックス」に出てきた銃器について語ろうと思う。
マッドマックスの世界では、銃よりもボウガンなイメージがある。なにせ、文明衰退後のお話。文明の機器である銃や弾丸。作るのは難しい。という裏設定なのだろうか。しかし、それでも銃器の需要はなくならない。
マッドマックスの銃といえば、ズバリそのまま『MAD MAX』というものがある。そう、映画の宣伝ポスター。DVDジャケット。はては、今回の映画『怒りのデス・ロード』の宣伝ポスターでも、誇らしげに構えられる、ソウドオフのショットガンだ。
用語を説明しておこう。「ソウドオフ」とは、ショットガンのストック、そして銃身を極端に切り詰めたもの。映画『ターミーネーター』で、おなじみだろう。未来から来た主人公が、コートの下に隠し持てるように、ストックとバレルを切り詰めていた。ああいう感じのショットガンを、ソウドオフという。
実際に、銃身を短くすると、至近距離で絶大な威力を発揮する上に、ほとんど大型のピストル、あるいはサブマシンガンサイズになって、容易に隠蔽ができるため、ほとんどの国が所持を禁止している。
しかし、何よりその凶暴性、太い銃身がぎゅっと詰まったようなスタイルは、何より頼りがいがある。実際にスクリーンでも見栄えがするではないか。シュワちゃんに至っては、『ターミーネーター3』で自分が使っている。
マックスの使ってる銃は、水平にバレルが並んでいる、狩猟用のポピュラーなショットガン。ポンプアクション、果てはオートショットガンが銀幕で幅をきかしているというのに、かなりノスタルジックな銃。これを、グリップは、もろ、ハンドガンスタイル。バレルも、44マグナム並に縮小。まさに、地獄の猟犬のような迫力を醸し出している。
更に、一昔前のエンフィールドなど、中折れ式リボルバーの如く、銃身を折って排莢する姿。そして、銃の情報にドカンと位置する巨大なバレル開放レバー。まるでグレネードランチャーのように一撃必殺の気合が入る。
実戦的に見たら「装弾数たったの二発」というのはかなり不利。しかし、次元もコブラも、装弾数不利をおしてリボルバーを使っているではないか。一撃必殺、いや一撃必殺を叩きこまねばならないこの銃は男の銃。
暴力と言う名のカオスが支配する『マッドマックス』。シリーズ三部作にわたって、彼の手にしかと握り続けられたこの銃は、まさにマックスという漢のアイコンにふさわしい。
ただし、劇中ではあまり抜かれることもない。『2』では、常に弾不足で、実は弾が入ってない。やっと手に入れた弾も、不発に近いクズ弾と、あまり優遇されていない。しかし、それだけ「弾丸は貴重品」ということを暗示している。そしていちいち二発装填で苦戦する、というもの、西部劇みたいでよろしいじゃないですか。
そして人気銃の宿命として、この銃もモデルガン化されている。マニア垂涎の、ツボをついたトイガンで定評があるハドソンが、リリースした本作。モデルガン時代から、グリップが木製にバージョンアップしたり、エアソフトガンが主流になると、ガスガンとして復活したり、と、ハドソンを代表する息の長いモデルだった。
しかし、惜しむべきことに、ハドソンという会社はもう存在しない。だが、名作はよみがえる。高級モデルガンメーカー「CAW」の手で。リリースされたのはモデルガンのみ。もちろん、レバーをリリースして、ミサイル搭載口みたいなバレルを開け、未だ硝煙ただようカートを引きずり出す、というのも、もちろん合法で何度もOK!
しかし、この日本にもマッドマックス浪人は多かった!人気をうけて、特別仕様版まで用意されたこの銃。即日完売で、店頭に並んでいるとこを見たことがない方も多いかもしれない。
今は売り切れ状態だけど、そのうち再販されるかもしれない。更に、ガスガンバージョンまでやってくれるかも!?メーカーのCAW、そして、CAW製品をメインで取り扱うMULEのページは、マメにチェックしとこう。
そして、本家本元?な、ハドソン製『マッドマックス』だけど、これが結構ヤフオクで見かける。待ちきれない方は、こっちもチェックを怠らないほうが吉。
続いて、敵方の銃。特に『マッドマックス2』においての大ボス、ヒューマンガスが使っている銃も忘れがたい。S&W M29。そう、『ダーティハリー』『タクシードライバー』でお馴染みのカリスマ銃。「世界一強力な拳銃」元祖44マグナムだ。さらに、これはその上にスコープまで付いている。
44マグナムというのは、その強力な威力を活かして、簡易の狙撃ライフルとしても使われるので、このオプションも伊達ではない。しかも、これは、中に赤い布張りがされている、豪華なケースに入れられて、おまけに弾まで綺麗に鎮座ましましている。つまり、王にふさわしい「高級品」だということだ。マッチョな裸体を惜しげもなくさらし、顔にはホッケーマスク。凶暴な王、ヒューマンガスにふさわしい優雅さを演出している。
特に、マックスが操るタンクローリーに仁王立ち、発砲するシーンの威風堂々さ!44マグナム使いとしては、ハリー・キャラハン。トラヴィス・ビックルに加え、ぜひヒューマンガスも入れて欲しい所だ。しかも、同時に発砲したマックスの銃は、暴発を起こし、マックスはバックファイヤーで「あちっ!」となってしまう。
逆に、ヒューマンガスの放った弾は、エンジンを見事にぶちぬく。つまり「ジャンク品から弾をかき集めざるを得なかったマックス」と「王にふさわしい恵まれた環境」を対比させている。この辺の演出の妙。小道具やシチュエーションで説明を省き、納得させるセンスが、マッドマックス全編にただよっている。
この芸の細かさが、未だに『マッドマックス』が神話として語られ、なおかつ今回の時を越えた新作につながっていく原動力だ。トイガンとしては、モデルガン、トイガンともにタナカがダントツで劇中のものに近い。安価なもので行くと、クラウンモデルのM29がある。
ディティールはいまいちだけど、性能はなかなか侮れない。ガスがいらないエア式と、ガスガン、両方取り揃えてあるのも魅力だ。コレにスコープを付け、ボンテージファッションで身を包み、ホッケーマスクをつければ、ヒューマンガス様いっちょあがり。ただし、自分の体型とは十分に相談することと、鏡の前だけにしよう。
そして、マッドマックスといえば、忘れられない銃に、モーゼルミリタリーがある。
一作目、暴走族がダッチワイフ兼用のマネキンの頭部を無残に破壊するのが、この銃だった。また、三作目の『サンダードーム』では、主人公マックス自体が使っている。サッと抜かれるソウドオフのショットガン。「それで終わりか!」とばかりに、逆の腕のほうから迫る敵。そこへスラリと日本刀のように抜かれたのが、これだった。
キャストで言うなら、ほんのちょい役なのだが、それでも、レトロモダンなこの特異なフォルムの銃は、抜群に似合っていた。モデルガン・ガスガン双方を、マルシンが出しているというのも嬉しい。
モデルガンの方は、モーゼルの機構をほぼ完璧に再現した、ということで、今でも再販されるらしいほどの名銃。特に、ワンタッチで複雑なパズルのように絡み合う内部機構が出てくる様には、感動すら覚える。もちろん実物と同じ手順でだ。ガスガンの方は、マルシンの最新技術が惜しげも無く投入されている。単射、連射切り替えが効き、しかもボルトがブローバックする、現時点で最高のモーゼルだ。
ただし、モーゼル拳銃というものは、ただでさえデリケートな機構。それを、強度面で劣るABSや柔らかい合金で再現しているので、あまり手荒に扱わないように。あくまでも、鑑賞メインとして味わって欲しい銃だ。
というわけで、今回も駆け足で眺めてきたマッドマックス関連のガジェットだったが、いかがだったろう。幼少時、現在の『ハリー・ポッター』なみに、TV洋画劇場を飾っていたのが、このシリーズ。
記憶があやふやなので、最近もう一回視聴してみた。そして「懐かしい」記憶に浸るどころではない。子どもの頃は気づかなかった、丁寧な作り込み、そしてアイディアの宝庫が詰まっている。まるで新たな宝石箱を見るような感覚で、これを見た。描かれるのは、さすらいの漢。すべてを失った怒りを、最後にぶつける。
しかし、それが目指したのは「無償の愛」
彼は、その怒りを他人を助けるために使っている。フィリップ・マーロウではないが「いつも損する生き方をしている」しかも、自分が命を落とすかもしれない理不尽な選択を常に選ぶ。これは何かに似ていないだろうか。さすらう男。ひねくれた荒くれ者。だけど、結局は他人のために命をかけて戦う。
そう、西部劇、特にマカロニ・ウエスタンのヒーロー。ヒーローの熱い命脈は、馬が車になり、銃声が車のクラッシュ音に変わっても、決して滅することがない。苦境に追い込まれれば追い込まれるほど、その輝きは増す。「ホースオペラ」ならぬ「カーオペラ」新たに命を吹き込まれた『マッドマックス』に、再び出会おうではないか。
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