ドラマ

斜陽のコルト社とS&W社のM1911「SW1911」

世界一有名な自動拳銃。キングオブ自動拳銃と言えばなんだろうか。多くの方が想像するとおりコルト社のM1911。45オートだろう。日本ではガバメントという通名で有名だ。

なにせ、登場時の1911年から1985年まで、一世紀近くもアメリカ軍の正式自動拳銃としての地位を守っていた。そして、未だに人々に愛される。どんぐりのような45ACPは、眺めているだけで強大なストッピング・パワーを秘めていることを伝えてくる。

頼もしいの一言。なにせ、アメリカで一番売れている銃だ。なんでも「グリップの角度、レイアウト」が、M1911ライクなら売れる」という神話が、ガンメーカーにあるようだ。

デトニクスに、ハードボーラー。前々からガバメントコピーはあったが、しかし、この銃のインパクトにはかなわないかもしれない。

SW 1911だ。

[toc]

ライバル意識が強かったコルトとS&W社

コルトとS&W。アメリカの二大ガンメーカー。お互いにお互いをけん制しているかのような雰囲気を伺わせるエピソードがある。

例えば、45口径、つまり、45オートマティック・「コルト」・ピストル弾を使うオートは、S&Wでは、M645が出現する1950年代まで待たなければいけなかった。

逆に、S&Wを押しも押されもせぬ「世界一強力な拳銃」に押し上げた44マグナム弾。コルトは、1990年のアナコンダまで使える銃を待たなければならなかった。

そこまでライバル意識が強かったコルトとS&W社。しかし、ついにコルト社の代名詞である45オートの1986年にパテントが切れ、SIGからアメリカン・ルガーまで、一斉にガバメントを作り始めた。そして、幾度となくコルト社倒産の声がささやかれる中、ライバルであるS&W社が、コルトの伝家の宝刀を生産し始めた。

これはなかなか暗示的ではないか。

S&W社のガバメント、SW1911

その名もずばり、SW1911だ。これも、サイトが大型化されていたり、スライド前方にも指かけの溝が付いていたり、ハンマーも起こしやすく、軽いスケルトンハンマー採用。トリガーも軽量化のため、穴があけられている。何気に、落下時の衝撃からマガジンを守るマガジンバンパーが付いていたりする。しっかりとモダナイズ、さらにはゴージャス感さえ漂う。サイトも、調整可能なリアサイトから、トリガー、ハンマーなど。あるいはステンレスモデルもそろっている。

中身も、ノーマルのガバメントから進化している。外装式エキストラクターは、より単純な形で形成でき、コストダウンに一役買っている。また、グリップセフティと連動したAFPBを採用。

このAFPBとは、現代の自動拳銃には必須と言っていいシロモノ。例えばSIGのP226など、マニュアルセフティがない。あるのはデコッキングレバーのみ。つまり「ハンマーさえ落としておけば安全」と言わんばかりだ。実際、セフティがないSIGが、それでもトカレフ呼ばわりされない秘密。それがAFPBだ。常にファイヤリングピンをがっちりホールド。そして、トリガーを押し込んだ時にだけ、弾が出る仕組みになっている。最近のオートマティック拳銃には必須なこれ。

しかし、何せデフォルトのM1911は「1911」年生まれ。基本設計が古いので、たびたびその安全性は指摘されてきた。その弱点を補ったのが、今流行している各社のM1911クローン。このS&WバージョンM1911も、今現在を生きる息吹を感じさせてくれる。しかも、パーツが豊富で、コルトM1911と同じく、「あなた好み」の45オートにできるわけだ。

実際「この豪華装備がお手頃価格で手に入る」というので、売れているらしい。

トイガンのSW1911

そして、M1911クローンの流行を、日本のトイガンメーカー、ウェスタンアームズが捨ておくわけがない。何せ「ガバメントばかり」作っている愛しきヘンタイメーカーだから。

実物に忠実なSW1911を、ブラックモデル・シルバーモデル、双方作っている。もちろん、スタンダードな5インチと、携帯に有利な4インチまで。また、45オートのコンバットシューティンクスタイルの神様、ジェフ・クーパーが作った、名門スクール、ガンサイトで使われているカスタム仕様。

あるいはトップシューター、ダグ・ケニーのマッチ用カスタムSW1911DKには、チャンバーを少し後ろに引いて、薬室に弾が入っているかどうかチェックする切り欠き。あるいは特徴的なフラットトップトリガーを再現。あるいは、人気刑事ドラマ『BOSS』劇中に出てきた仕様のものを再現したり、それぞれのモデルだけで個性的なバリエーション。

コルト社の永遠のライバルだったS&Wが、長年追い続けてきたM1911を作るとこうなる。ある意味マイルストーンな金字塔。ガバメントファンなら、一台手元に置いておくべきだろう。

S&Wオート最高峰 S&W M945

そして、SW1911を語る上で、外してはいけないのが、S&WM945。SW1911誕生前夜に生まれたこの銃。「S&Wが本気でコルト45オートを作ってみました。」という、チャレンジングスピリットがありありとあふれる銃。そう、スライド部にあるセフティをフレーム後部に配置。グリップセフティ装備。ともろにコルトM1911を目指して作られた銃。

念のため、M1911ではない。M1911のパーツと互換性がない。角ばって、無駄のないシャープなスタイリングは、S&Wのオートそのもの。マイアミ・バイスで一躍有名になった、同社の名銃。M645のアトモスフィアがバッチリ。なにせ、S&W直々のカスタム部門「パフォーマンス・センター」が開発している。スライドの先端、そして後部を飾る特徴的なうろこ状の滑り止めは、まるで龍のように気品がある。

また、スリーホールが開けられたトリガー。勢い良く下がるスライド・ハンマーで親指を挟まないために、延長されたグリップセフティ後部。ハンマーもスケルトンタイプだし、マガジンにはデフォルトでマガジンバンパーがつく。見ているだけで豪華な仕様となっている。それにふさわしく、お値段も約2000ドルだったが、見事に売れた。

S&Wオート最高峰のこの銃も、トイガンメーカーKSCが見事にガスガン化している。細部にこだわるKSC。特徴的なうろこ状の滑り止めに始まり、内部的にも、バレルを保持し命中精度を上げるスフェリカルブッシングを再現。ハンマーなどには、本物と同じ素材「焼結形成金属」を採用。一つ上のトリガーの切れが味わえる。

もちろん、ノーマルのブラックモデル、シルバーモデルに加えて、コンパクト。さらにはカスタムまで用意されているのがうれしい。コンパクトの方も、ノーマルモデル意外にも、カスタムモデル「ジョーカー」「コンパクトスライダー」まである。「ジョーカー」は、フルサイズのものと同じく、軽量化のためスライドの一部が削り取られているのが、デザインに緊張感を持たせている。

また、スパイダーの方は、古いマニアには涙が出るほど懐かしい「デベルカスタム」を彷彿させるスタイル。マニアックな話で悪いが、刑事ドラマ『あいつがトラブル』で、主人公が持っていたカスタム。それがデベルだ。

スライド横に一本引かれた溝。グリップ中央には、縦に窓が開く。実銃はここから残弾が確認できる。

「ただ、小型化しただけなのに、こんなにイメージが変わる!」

ノーマルのコンパクトに加え、個性が強いカスタムを二種も用意してくれたのが、心憎い。また、ノーマルサイズのカスタム「カスタムキャリー」は、「V12ポート」と呼ばれる噴出ガスを上方に逃がし、反動を抑えるシステムを追加。もちろん、トイガンとしての意味はないけど、そこまで造形にこだわるのは、さすがKSC!

スライド溝が、うろこ状と、普通の銃のようなストレートな溝になっているもの、二種類取りそろえているのもうれしいところだまた、ただでさえデラックスな装備をしているの銃なのに、さらにカスタムされた「フルハウス」カスタムも登場。延長されたロングコンプ。フラッシュライト等を取り付けるために付属されたレールなどが、見た目にも頼もしい一品。
まさに「無駄札がない」=「フルハウス」の名にふさわしいカスタムとなっている。

加えて、コンプ形状が違う「スーパーフルハウス」もある。旧MGCが製作していた、ガバメントの各種カスタムモデルを彷彿させるデザインは、古いガンマニアの涙腺をゆるませるかもしれない。

ように多様なバリエーションがあるKSCのM945。その中には、アナタの気にいる銃も必ずあるはず。というわけで、S&WのM1911クローンを紹介してきたが、いかがだっただろうか?S&Wによって、新たに命を吹き込まれたコルトの主力商品が売れている。コルト社の斜陽を暗示させる話だが、それにしても、一度は手に取りたい銃であるのは間違いない。

指がセフティ、トリガー、スライドストップの位置を覚えている。そんなコルト45オートの「伝統的」な扱いやすさ。だけど、外見はS&Wオートの伝統なムダのないフォルム。この二つが交じり合った絶妙なアトモスフィア!使いやすく、カッコイイ。そして何よりも個性的!

SW1911、そしてM945もぜひとも手にしてみたい銃だ。

Photo by wikipedia.org